「とてもよく似合ってる」。
その言葉にはなんの意図もなかった。ただ単純にかわいいと思ったから口に出した。それだけだ。
それなのに、どうしてもう一度目にした今はそれが言えないのだろう。
「言ってよ、ギル。昼間はあんなに誉めてくれたじゃん」
夜も更けた時間にギルバートの部屋にやってきた訪問者は彼の主人。身につけた衣服はどういうわけか、この場にそぐわないバルマ邸の特注品だ。
外の国からやってきたバルマ家は、主人の顔立ちから屋敷の外観、使用人の衣服に至るまでこの国のものとは少し違う。東のほうの国だと聞き齧ったことがあるが、その国そのものではなく、いろんな国の様式がそこにプラスされているらしい。おそらく他の国のことを一番よく知っているのだろう。
そんなバルマ邸の使用人服……この国風に言うならメイド服。確かにそれはオズが昼間『潜入捜査』のために着たものだ。
帰るときに置いてきたはずのものがここにあるのは不思議だが、問題はそんな些細なことではない。メイド服を着たオズに思いっきり抱きつかれ顔を近付けられているこの状況では。
「ねぇ、ギルバート。言えよ、『かわいい』って」
ねだるオズは、見た目も仕草も確かにかわいらしい。
しかしギルバートの口からオズの望む言葉はなかなか出てこなかった。昼間はあんなに簡単に口にできたのに。
*一晩限定メイドさん。*
どうしてなのかはわからない。
確かにかわいいとは思う。だけどそれを口にするのは、何故だかすごく恥ずかしい。
ギルバートが顔を赤くして視線をそらすとオズはため息をついた。くっついていた身体を離してぽすんとベッドに腰掛ける。
「ギルのヘタレ。昼間はなんでもない顔して言ったくせに、肝心なときに言ってくんない」
「か、肝心なとき……?」
不満げに、なのにどこか嬉しそうにも見える表情で言うオズに、ギルバートは首をかしげた。この状況でそんな反応をしてしまえるほど鈍いのだ、ギルバートは。
「は?じゃあ、わからないでそんな反応してたわけ?全くもう……」
「だからなにがだっ」
オズはやれやれと一人息をつく。
ギルバートは聞き返すことしかできない。しかし次のオズの行動に、心臓が大きく打った。
行儀悪くベッドに片膝を立てたオズが、そっとスカートを持ち上げる。足首まであるロングスカートはするすると覆い隠していた脚をさらけ出していった。
「オズっ、なにを!」
「どう?……見たい?」
「なっ……」
悪戯っ子のあの目付きでギルバートを見つめる。スカートからは黒いタイツなのかソックスなのか……をまとった脚が腿近くまで覗けていた。そこから視線を外すことができないでいるギルバートに、オズがくすっと笑った。
「ほら。オレのこと意識してるでしょ。『かわいい』って言えなくなっちゃうくらい」
「オズ……!」
指摘されてようやく気付く。オズに『かわいい』『似合ってる』と言えなかったのは、そういう……平たくいえば邪な……気持ちがあったからだ。
公爵家の息子という高い身分を持ち、はっきりと少年の身体つきをしたオズがメイド服を身につける。その倒錯さと背徳感に欲情したのだ。
赤くなってそれ以上言葉が見つからないでいるギルバートに、オズは立ち上がると再び抱きついてくる。
「嬉しいよ、ちゃんとオレが欲しいって思ってくれてるんだ。だから、さ」
笑顔でギルバートを見上げたオズ。その瞳は普段の目付きからは想像もできないほど妖艶な光に満ちていた。
「今夜はオレがギルのメイドさんになってあげるね」
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突発的にネタが降臨して書き始めましたギルオズ!初作品なのに、なんということか女装ネタ。我ながら酷いです。
でも全て原作が原因です!だって本編でオズが堂々と女装するなんて思わないじゃないですか!ギルはカバー裏やらドラマCDやらで女装済みですが、まさか本編で!見た瞬間「Gファンどうした!?」ってわが目を疑いました。本当にパンドラはやらかしてくださいます…。
そんなわけで突発的に書き始めてしまいました、ギルオズです。しかしごめんなさい!現在裏ではオズギルのほうを更新中なので、こちらの更新はそちらのかたがついてからになります……ギルオズの方には本当にごめんなさい!!!なるべく早く致します〜!
10.04.24.