Dreaming Sunday

*駄目っ子インキュバス*


公爵家の一つであるベザリウスの館は広い。脇目をふらずにいても、端から端まで歩くのに30分はかかるだろう。
そんな広い館は厳重な警備に護られている。当主の息子、つまり御曹司の部屋ともなれば尚更だ。
ベザリウス家の長男、オズは、深夜自室のベッドの中でふと目を覚ました。
部屋の中に妙な気配を感じる。繰り返すがこの館の警備は厳しい。ほいほい部屋に侵入など本来はできないのだ。
「誰だ?」
「わ……!?」
素早くサイドテーブルのランプをつけると『侵入者』は突然灯ったひかりに目を覆った。暗い場所だから目がくらんだという様子にしては光に対する反応が強すぎる。
オズの頭にある可能性が浮かんだ。光を嫌う、闇に暮らす生き物ではないか。
「なに?お前。取り次ぎもなしにオレの部屋をこんな時間に訪問なんて、どう見ても怪しいやつだけど」
「えっ、あの、オレは、……」
オズは侵入者をまじまじと見つめた。
背の高い黒髪の青年だ。歳の頃は20代なかばといったところか。目を覆っているからよくわからないが、どうやら見た目はなかなかよさそうだ。
黒いパンツに黒いコートの姿。全身真っ黒の服を着ていた。
「なに?答えないならこのまま警備に引き渡してもいいんだけど。大声出そうか」
「まっ……待ってくれ、その……灯りを消してくれないか……眩しい……」
「はあ?消したらお前逃げるだろ」
オズは呆れた声を出す。どうやら怪しくはないにしても変なやつのようだ。さっさと逃げてしまえばいいのに眩しくてなにもできないという。
まぁでも、印象は悪いものではないし、とオズはベッドを降りると未だに目を覆っている青年の腕を引っ張った。ベッドの傍まで引きずってくる。
「ほら。こっち来い。これなら逃げられないだろ」
そうしてから片手でランプの灯りをぎりぎりまで絞った。顔がなんとかわかるだろうという明るさまで光がおち、青年がほっとした様子で腕を目から離す。その顔を見てオズの胸は高鳴った。
綺麗な顔をしている。金の瞳をした眼は少しつり目がち。しかし怖い印象は全くない。青年がおどおどしているのと相まって、オズに恐怖を与えることは微塵もなかった。
「ほら、これでいいだろ。お前はなんなの」
「オレは……人には淫魔と呼ばれている」
「インキュバス?へぇ、つまりオレの寝込みを襲うつもりだったんだ」
掴んだ腕を離さないまま、オズは青年の肩を押してベッドに強制的に座らせた。そうしてから自分もベッドに乗り上げる。
広いオズの部屋はベッドも当然大きく豪華なもの。キングサイズのベッドは男二人を乗せても全く文句を言わなかった。
「そのつもりだったけど……、慎重に入ったのに起こしてしまったし、本当ならちゃんと」
「なるほど。お前、さては落ちこぼれだな?」
インキュバスの出現の仕方といったら、寝ているうちにいつのまにか手を出されていたというのが定番だ。手を出す前に侵入に気付かれるインキュバスなど出来損ないに決まっている。
オズが指摘すると、青年はかぁっと頬を染めた。反論しないところを見ると図星のようだ。
「なーんだ。こんなインキュバスなら全く怖くないな。さて、どうするか」
「……帰らせてくれないのか……」
オズはぱっと手を離してしばし考えた。この様子なら姿を消したりなどはできないのだろう。捕まえていなくても逃がしてしまう気は全くしなかった。
青年はおどおどしている。さっさと逃げられないところがまた落ちこぼれたる所以なのだろう。
「だってお前、食事に来たんだろ?そのまま帰るっていうの?」
「……それはそうなんだが……」
見付かってしまっては食べられないし、などともにょもにょ言う。
というかそもそもインキュバスは女性を襲うものなのではないか、何故れっきとした男であるオズの部屋にやってきたのかという疑問が今更頭に浮かんでくる。そのあたりも落ちこぼれだからなのだろうか。
でもそのことは既にどうでもよくなっていた。不意に部屋に紛れ込んできた、綺麗な楽しい玩具を逃がすつもりなどなかったのだから。
ベッドに座った青年に乗り上げる。顎を掴んでこちらを向かせる。すると青年はおどおどした瞳でオズを見つめ返した。
普通のインキュバスとはだいぶ違うのだろうが、落ちこぼれでも淫魔は淫魔。吸い込まれそうな魅力を瞳に秘めていた。
「落ちこぼれじゃ食事も満足にできないんじゃないの?オレが付き合ってやろうか」
「本当かっ!?」
オズが言うと、青年はぱっと瞳を輝かせた。
どうやら意味がきちんと伝わっていないようだ。食事させてもらうつもりでいるのはオズのほうだというのに。
でもそれは好都合。獲物を逃がすわけにはいかない。
「うん、オレって優しいでしょ。あ、別に死んだりしないよな?」
「死ぬほど精気を吸い尽したりはしない!少し疲れるかもしれないが……」
「そのくらいなら大丈夫。じゃあ、早速」
「え……っ?」
乗り上げた姿勢のまま青年を押してベッドに倒す。恐らく考えていた体勢と逆にされたであろう青年が戸惑いの声をあげたけれどもう遅い。オズをターゲットに選んだのが不運だったと思ってもらうしかない。
おとなしくベッドに沈んだ青年に、オズはそっと口付けた。


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10.04.19.





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