why
「本当に、言わなきゃわからない?」
抱きしめる。
キスをする。
そんなことをする理由、どうしてか、なんてあまりたくさんはないだろう。
なのにあいつは呟くのだ。「なんで」と。泳いだ目のまま言うから無意識なのかもしれない。
オレのいなかった(らしい)10年という時間は、あいつを子供っぽさの残る少年から青年へと成長させた。しかしどうやら根本は変わっていないようだ。
抱きしめればあの頃と同じように「ダメだ」と言う。尤も昔は「いけません」と敬語だったけれど、言われている内容は同じなのだからそこはどうでもいい。
心の底から嫌がっているのではないと思う。優柔不断に見せかけて、実のところあいつは好き嫌いがかなりはっきりしている。嫌だと思うならそれなりの態度を取るはずだ。
それをしないのは、つまりは嫌だと思わない気持ちが少しでもあるからに他ならない。それがなになのかはわからないけれど。
主人に対する愛情から拒みきれずにいるのだったら、オレには悲しいことだ。
ギルを抱きしめる。
昔と違ってオレの腕にはあまるほど大きく成長した体。
柔らかだった肌は大人の男の引き締まったものに。
甘さを含んだにおいだった香りは煙草のくすんだ香りに。
あちこち変わってしまったけれど、中身は変わっていないのだからオレには問題ない。
問題ないのに……ギルはやっぱり呟くのだ。「なんで」と。
「言わなきゃわからない?」
聞き返すと、ギルははっとしたような表情を浮かべる。ようやく自分の呟いた言葉の内容に思い当たった、という表情だ。無意識のうちなのかという予想はそのとおりだったらしい。
「わかってもらえてないなら悲しいなぁ」
「ちがっ……そういうんじゃ、」
これみよがしに寂しそうな顔をして、はぁ、とため息をつけば、ギルは慌てて違うのだと言う。でもなにが違うんだよ?無意識でもそんな言葉が出てくるのは、つまりオレを信じ切れてないからじゃないか。
なんだかつまらなくなって、少し素っ気なくギルを離した。抱きしめているつもりでも、実際にはギルのほうが随分大きいのだ。子供が我が侭を言って抱きついているようにしか見えないのかもしれない。他から見えるオレとギル、普段はどうでもいいと思っていたそのことが、やけに気になる。
「オズ、違うんだ」
「違う?なにが違うんだよ、お前はわかってないんだろ、だから『なんで』なんて言うんじゃないか。それのなにが違うって?」
「だから……!」
そのことには一瞬びっくりした。いつも所在無さげにオレに抱きしめられているままだったギルが、抱きしめてくるなんて。
背中からオレを抱きしめてきたギルの腕は、すっぽりとオレを包み込んでしまう。だけどそれは不快なものではなかった。
「わからないとかそういうんじゃない、……けど、オズが……なんでオレを選んでくれたのか、というのが」
「……バカだな」
ギルの行動に不覚にも高鳴った鼓動がようやくいつものように落ち着いてくる。それと同時にふっと笑いがこみ上げた。
こんなことをしておきながら、多分ギルのほうが焦っている。背中から伝わる鼓動は早い。オレがギルを抱きしめる、そのときよりも。
「ギルがギルだから。それ以上の理由なんてないよ」
オレにとっては単純すぎる理由。
だって決めていたんだ、初めて会ったあの頃からからオレのものにしよう、って。
「『なんで』とか『オレなんか』とか、うじうじ考えちゃって一人でぐるぐるするとこなんか、全くしょうがないなぁ、って思うけどさ。そんなとこもかわいいとか思うんだからしょうがないじゃん」
「……かわいい……?」
うろたえたような声が降ってくる。確かに一般的にはいい年の男に使う形容詞ではないかもね。でもギルにはそう思うんだから仕方ない。オレにとってはかわいくてたまらない存在だ。
「お前がお前であることをやめないなら、オレはそんな『ギルバート』が好きだよ。他に理由なんてない。大体理由なんてつけられるものじゃないだろ」
「……いいのか、本当、にっ……!?」
「ばーか」
全く、このオレが大サービスでここまで言ってやったっていうのに、ギルときたらまだそんなことを言う。
ちょっとむっとして、ギルの腕をほどいて向き直ると背伸びしておでこをはじいてやった。ギルは少しのけぞって、痛そうにおでこを押さえる。このくらいで許してやることに感謝して欲しいね。
「全く、物分りが悪いなぁ。そんなことばっかり言ってると、もう抱きしめてやらないよ。いいの?」
「それはっ…………悪かった、から……」
ギルは一瞬どきりとした表情を浮かべて、そのあと本気でうろたえる。その頬は僅かに赤く染まっていて、これだからオレは困ってしまう。こんなかわいい様子を見せられたら、抱きしめてやらずにいることなんてできやしない。
オレはギルが好きで、そしてギルもオレを好きだと言ってくれる。ギルはそのことをもっと単純に捉えればいいのに、何故だか余計なことを考えるのだ。だから多分「なんで」はまた出てくるだろう。
でも聞きたいなら言ってやるよ。「お前が好きだからだよ」。
頭の固いギルが理解するまで、満足するまで。何回だって言ってやる。
END.
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昔の作品救済です。2009年12月くらいに書いて、オンラインのお祭りに投稿させていただいた作品なのですが、ごめんなさい、記憶が曖昧です。サイト様ももう跡地がなく、ブログのログにも残っていなかったのでもう調べようがないです…ごめんなさい…。
パンドラでアルファベットのお題、『W』のお題『Why』で書かせていただいたものです。多分オズギルオズで投稿させていただいたはず?このころの作品はやっぱり曖昧ですね。
再録:11.01.16.