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わかめスープ、ミニサイズ

「……」
その日、オズはいつものわかめスープを取り出そうとして手を止めた。
棚に入っていたのは確かにいつもと同じインスタントのわかめスープだ。しかしサイズが随分違っていた。今までの半分程度の大きさだろうか、そんな『ミニサイズ』のわかめスープの箱がそこに置いてある。
上にはメモ。ギルバートの字で『すまない、いつものが売り切れだった。これでもいいか?』と書いてある。
これでかまわない、かまわないのだけど……。
オズが気になるのは別の、ギルバートには決して言えないことだ。つまり、このミニサイズのわかめスープから、果たして例の青年は出現するのだろうかということ。
初めてわかめスープが青年の、しかも従者としてもそれ以上にも愛するギルバートの姿を取ったとき、オズは当たり前だが大変驚いた。しかし結果的においしくいただいてしまって、それ以来秘密の逢瀬を重ねることとなった。
同じ姿とはいえギルバートに内緒で浮気をしているようで後ろめたくはあったのだが、あるときわかめスープの青年から聞いたことでその気持ちも薄れてしまった。そのときのことを思い出す。


「お前さ、誰が作ってもその姿になるの?他の家でも?」
何回目かにスープを作ったときに、ふと気になって聞いてみた。
それは淡い嫉妬心。他の誰が作ってもギルバートの姿になるのだとしたら許しがたい。どうしたらいいのかはわからないが……とにかく黙ってはいられない。
すると青年は説明した。
「どこでもこの姿なわけじゃない。オレが今この姿なのは、オレを買っていくやつのせいだ。いつも『オズがお腹を空かせて待つことのないように買っておかなきゃな』と聞こえるんだ。そいつがあんまりお前のことばっかり考えるからオレもこの姿になってしまう。そいつに限らず、ひとの形になるのはそういうときだ」
それで納得していいものか疑問に覚えなくもなかったのだが、とりあえずオズはそれで安心しておくことにした。つまりギルバートのオズを想う気持ちがわかめスープに乗り移っているのだと思えばいい。
わかめスープを食べるのはギルバートがいないときだけだ。本人がいないのだから、ギルバートの気持ちの欠片と一緒に過ごす。オズはそんな理屈で自分の行動を肯定していた。
ギルバートはあれでいてやきもちやきだから、知られてしまったら自分の姿でも嫉妬すると思うけど。
そう考えてくすっと笑う。それも悪くない。ギルバートが嫉妬してくれるなら、むしろ見せつけてやりたいといじめっこのオズは思ってしまうのだ。
そんな理由で、ギルバートの留守にはわかめスープでギルバートの断片と過ごしてきた。

しかし今あるのはミニサイズだ。理屈からいえば、大きかろうと小さかろうと、こもっている気持ちに違いはないだろう。非現実的な出来事に理屈が通るかは怪しいものだが。
しかし興味もあった。このわかめスープを作ったら、どんな『わかめスープ』ができるだろう。
オズは好奇心のままに、封を切るといつものようにスープを作り始めた。

そして。
「こんにちは、マスター」
できあがったわかめスープは……幼い頃のギルバートの姿をしていた。初めて会ったときと同じように「マスター」などと呼んでくる。今の彼からは考えられないほどかわいらしい姿になってしまったわかめスープを、オズは思わず抱きしめていた。
「か……かわいー!そうだよ、こんなかわいい頃もあったんだよなぁ!あいつったら無駄にでかくなるから……」
「あ、あの……マスター?」
わかめスープ……今は少年……が戸惑ったように声をあげる。抱きしめた体からはインスタントのわかめスープのおいしそうな匂いがした。今ではこの匂いがするだけでお腹が鳴りそうだ。
「あの……マス、……坊っちゃん。早く食べないと冷めますよ?」
「そうそうそうだよっ、昔は『坊っちゃん』だったんだよなぁ。今は生意気にも呼び捨てにしちゃってさ。それはそれで嬉しいけど、やっぱり『坊っちゃん』もいいっていうか……」
「もう……冷めたらおいしくなくなりますよ?」
少年が呆れたような声を出すけれど、すぐに食べてしまうのは勿体ないと思ってしまう。なにしろ食べたらなくなってしまうのだ。
しかしわかめスープのおいしそうな匂いとギルバートのかわいい姿がオズを力強く誘惑した。空腹と愛情に負け、オズは幼いギルバートの姿をした少年の頬をそっと包み込む。
「わかったよ。じゃ……いただきます」
「はい、坊っちゃん」
幼いギルバートは今より感情表現がずっと素直だった。
今もそうだ。全身で「坊っちゃんの相手ができるのが嬉しい」と表現している。今のギルバートはそれを隠してしまいがちだから。
ミニサイズもなかなか良かったかもしれない。はじめの一口を味わいながら、オズはつくづくそう思った。

「ごちそうさま」
「……お粗末様でした……おいしかったですか……?」
「うん、とっても」
ミニサイズはやはりミニサイズで、満腹にはならなかったが味にかわりはなかった。オズは満足して身体を離す。いつもどおりこのまま消えてしまうのだろう。もう慣れたけれど、やはりいつもこの瞬間は寂しくなる。そして本物のギルバートに今すぐ会いたくなってしまうのだ。
「坊っちゃんは、この方が本当にお好きなんですね。とてもおいしそうに食べてくださいましたから」
ぽうっと淡く光を放ちながら、少年は言う。オズはすぐに頷いた。気持ちを隠す必要などなかったから。
「うん。大好きだよ」
答えると、少年も嬉しそうに笑う。
「ボクを買っていってくれるあの方の気持ちが、きっとボクをおいしくしてくれたんです。だってキッチンの棚にいても聞こえるんですよ、『オズが』『オズが』って。ずっと坊っちゃんのことを考えてらっしゃいます」
「そう……なんだ……」
ギルバートの隠された気持ちをギルバート本人から聞いている気になってしまう。それはどこかくすぐったいものだった。
「はい。だからまた、きっと会えますね」
そのまま少年は、いつもどおり消えてしまった。少しの寂しさを覚えながら、オズは残ったカップを手に取る。
ギルバートがこんなに自分のことを考えていてくれる。これ以上の幸せがあるだろうか。わかめスープはそのことを教えてくれた。
「……ギル」
早くギルバートに会いたい。わかめスープはおいしかったけれど、早く本物のギルバートに会いたかった。そしてわかめスープでもらったぶんのギルバートの気持ちを、今度は返してやるのだ。抱きしめようか、撫でてやろうか、なんでもいいけれどたくさん。
オズは待ち遠しく思いながら過ごす。
ギルバートが早く帰ってきますように。


END.


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昔の作品救済シリーズ。わかめスープ妄想の続編です。子ギルver.のわかめスープ妄想です。そういえば私が子ギルを書くことはあまりないので今思えば珍しいかも?


再録:11.01.16.



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