Dreaming Sunday

  1. Home
  2. Novel
  3. twin room




(……これは……なんという拷問だ……?)
少々狭いベッドの中、ギルバートは苦悩していた。
パンドラから依頼された調査の途中、泊まった宿。そこでなんの因果かオズと同じベッドに入る羽目になってしまった。
現在、ギルバートの横ではオズがすやすやと寝息を立てている。
ここがオズの生きていた世界から10年後であることも、オズが不在にしていた10年の間になにがあったのかも知らないまま。勿論隣にいる男……鴉がギルバートであるということすらも。


twin room




「話の途中で寝るくらい疲れてたんだな、アリス」
「ったく……仕方ないバカウサギだ」
三人で宿を取り、少し話をしている間にアリスは座ったまま眠り込んでしまった。ギルバートは一つため息をつくと、アリスを抱えてベッドに運ぶ。ベッドに横たえると布団をかけてやった。
その様子を見てオズがふにゃりと笑う。
「優しいんだね、鴉。アリスと喧嘩ばっかりしてたのに」
「……別に優しいとかじゃない。こんなところで寝て、風邪でも引かれたら困るのはオレだ」
「チェインでも風邪、引くの?」
「それは……わからないが」
アリスに優しくしたいわけではない。むしろ10年前は主人であった、そして今でも大切な存在であるオズを違法契約させた憎い相手といったほうが正しいかもしれない。
しかしそんな相手でも、自分より小さな子供だ。少なくとも見た目は。そんなアリスにあからさまに冷たくすることもできはしない。
そんな二人のやり取りを気にするでもなくアリスはすやすや眠っている。こうして見ると本当にただの一人の女の子だった。
「ふぁ……オレも眠くなってきたかも〜」
「もう寝るといい。明日も早いぞ」
「あ、でもさ、ベッド……もう一つしかないよ?」
年相応の顔であくびをしたオズにギルバートは寝るように勧めたが、オズはもう一つのベッドを指差した。確かにこの部屋はツイン、ベッドは二つだ。
しかしギルバートに元々この夜眠るつもりはなかった。オズとアリスが寝入ったら聞き込みに出掛けるつもりだったのだ。よってベッドは二つあればなんの問題もない……はずだった。
「お前がそこで寝るといい。オレのことは気にするな」
「えー、床で寝んの?体痛くなるよ……あ、そっか、一緒に寝ればいいじゃん!」
ギルバートはそのセリフに一瞬固まった。オズと一つのベッドに入るところが瞬時に脳裏に浮かび、かぁっと体が熱くなる。
10年前、それよりもっと前、一緒に過ごしていたときは同じベッドで眠ることもあった。勿論オズからの要望で半ば強制的に、である。『ボクは従者ですから、主人と同じベッドに入るなんていけません』と幼いギルバートは必死に抵抗したのだが、例によって毎回丸め込まれていた。
その頃なら良かったのだ。断ったのは建前で、オズと寄り添って眠る夜はとても安心したのを覚えている。
しかし今は状況が違う。オズが10年前と変わらぬ姿ということもあるが、今は主人と従者という関係すらない。そんな自分をオズはベッドに入れてはいけないのだ。
そんな理由から固まったギルバートをオズは不思議そうに見つめてきた。
「なに?別にいいだろ。ちょっと狭いかもしれないけど床より……、あ」
今のオズにその理由などわからないだろうし、言えるはずもない。なんと断るべきか逡巡していると、オズは理由に思い当たった、という顔をしてとんでもないことを言ってのけた。
「大丈夫だよ〜、襲ったりしないからさ」
「な……!?」
オズのその発想はギルバートにとって全く予想外だった。確かに一つのベッドに入るのを躊躇う理由としては、定番といえば定番。しかしそんなことを考えてもいなかったギルバートにしてみれば、元々の理由に加えて葛藤する理由が更に増えただけである。
「それが心配なんじゃなかったの?じゃ、いいじゃん」
そんなふうに押し切られ……断ることもできずにオズと同じベッドに入ることを余儀なくされたのだった。


あかりを落とした部屋の中、光源は月明かりだけだ。窓から差し込む光で眠るオズの顔が見える。
10年。
ずっと見たいと思っていた。会いたいと思っていた。そんな存在がこんなにも近くにあるなんて、夢のようだ。
ギルバートはそっと手を伸ばすとオズの前髪に触れた。陽に当たればきらきら輝く金の髪はまっすぐで、ギルバートの手をすり抜ける。
(オズ……坊っちゃん)
昔呼んでいたように心の中で呼べば、今隣にいるオズが確かなものとして感じられる気がした。
自分がギルバートだと、いつか……そう遠くないうちにもしかしたら気付かれるかもしれない。オズは人のことによく気付く。
言えずにいたものの、隠し通す自信もなかった。さっきだって。
「鴉って不思議だな。会ったばっかりなのに、なんか知ってる感じがする」
「……そうか?気のせいだろう」
「ううん、そんなことないよ。だって、知ってる……」
オズが寝付く前にそんなやりとりをした。そのまま眠ってしまったオズから続きを聞くことはできなかったけれど。
オズに見抜かれる前に言うべきだろうか。でもどんな顔をして言えばいいのだろう。ベザリウスを裏切り敵対するナイトレイの、そしてパンドラの手先になっていること。それを考えるとやはり言えそうになかった。
(オズ……)
オズはこんなにも変わらないのに。自分は変わってしまった。それも多分、あまりよくない方向に。ギルバートは小さくため息をついた。
近くにいたらきっと気付かれる。だけど10年ぶりに再会できて、離れていることなどできはしなかったのだ。もう二度と失いたくないから。
(オレは……そういうことを考えていたのか?いや、まさかそんなこと……)
『襲ったりしないから』
オズの言葉がよみがえる。冗談めかせた響きではあったがそのセリフは衝撃だった。まさかオズにそんなことをしたりされたりなど……。そんなことは望んでいなかったはずだ。
しかし本当に望んでいなかったのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなってしまう。
そんな悩みを抱えたままいるオズの隣は、ギルバートにとって甘やかな拷問だった。それなのに、オズとこうしていると10年も前の日々が懐かしく思い出される。
昔は同じベッドに入ると、ギルバートより大きかったオズが抱きしめてくれた。「いけません」と言いながらも、それが嬉しかったことも思い出す。
目を閉じれば感じるのはオズのにおいと温かさ。もう一度会いたいと、どんなに焦がれたことか。
今ここにいるオズ。その安心感に、ギルバートの意識もまどろみだす。
「ん……ギル……」
不透明になった意識の中、オズがギルバートを呼び、昔のように抱きしめられた気がした。
もしかしたらそれは夢だったのかもしれないけれど。


END.


*****
あけましておめでとうございます…というのも少々遅いですね。新年初の更新がこんなに遅くなってしまってごめんなさい。今年もよろしくお願いします。
去年の10月頃にパンドラハーツを好きになったものの、そのときは違うジャンルで同人活動をしていたため、「ジャンル替えをするべきか?」と少々悩んでおりました。悩みつつもコミックを揃え、次にアニメに手を出しました。そこで私は見てしまったのです…花売りの女の子の話の回…一行が泊まった部屋がツインルームだったことに!!!
漫画ではよくわからなかったのですが、そこはアニメさまさま、ベッドが二つしかないのがはっきりとわかりました。「えっ、一つではアリスが寝てたし…まさかオズとギルはもう一つのベッドで一緒に!?」と妄想が大爆発。冷静に考えれば、ギルはこの夜聞き込みに行く予定で寝るつもりはなかったのですから「二人が眠れる部屋ならいい」とツインの部屋にしたと解釈できるのですが…腐女子にそんな正論は通用しません。「二人はそういう関係だったのね!ギルオズなのね!(※この頃はまだギルが攻めだと信じていました…)」と走り出したら止まらず…ここまできてしまいました。
そんな思い出深いシーンを小説にしてみました。ギルオズだと信じていた頃に書いたので、まだギルが多少なりとも(笑)攻めっぽいですね。
……でもラストにこんな捏造をしたら、結局ストーリーが進まずにバッドエンド確定なのでは?(笑)


10.01.07.



Web拍手 twitter

Copy Right © Dreaming Sunday all rights reserved.