jasmine tea,&swinging
ずっと気になっていることがあった。
「なぁ、リーオ」
放課後、寮の部屋、温かいハーブティー。
それを手にしながらエリオットは尋ねた。お茶の用意をしてくれた自分の従者、リーオに。
何度も聞こうと思った。
でも今まで聞けずにいた。
だってそれは間違っていたらかなり気まずいことだ。きっとどれだけ思いあがっているのだろうかと思われる。
だけどわからないのだ。リーオはどう思っているのだろう。
「なに?エリオット」
自分の分のハーブティーを手にしたまま、キッチンに向かっていたリーオは振り返る。ぼさぼさの前髪と厚い眼鏡の奥で、微笑んでいるのがわかった。
それに勇気づけられてエリオットは思い切って口に出した。ずっと気になっていたことを。
「オレ、もしかして、……お前に酷いことをしてるんじゃないか」
確かに一瞬空白があった。エリオットは確かにそれを感じ取った。
でもリーオは笑顔で訊き返す。
「……どうして?」
確信は持てなかった。エリオットの言葉が正しかったから空白ができたとは限らない。
おかしなことを言われて戸惑ったのかもしれない。
なにを言っているのか伝わらなかったのかもしれない。
いろんな可能性がエリオットの頭に瞬時に浮かび、消えていった。そして残るものはなにもない。
「お前に甘えるだけ甘えている気がする……。それって酷いことじゃないか?その、もしも」
『お前がオレを好きでいてくれるなら』。
その重要な部分は出てこなかった。エリオットの言葉はそこでとまってしまう。
ずっと不安だったこと。
リーオはエリオットが抱えている恋を知っている。誰を好きなのかも、その相手になにをされているのかも知っている。
いつ知られたのかはわからない。いつもそうだから。特別なことをしているでもないのに、いつのまにか知られているのだ。友情を越えて主従の絆を結んでからずっとそうだった。
想う人に酷く扱われて傷ついて帰ってきたときは必ず傍にいてくれる。なにも聞かずに受けとめてくれて、優しくしてくれて。そんなリーオにどんなに救われているかわからない。一人だったらきっと持て余してしまって壊れていたに違いない。
それだけリーオに寄りかかるうちに気付いたのだ。どうしてこんなに優しくしてくれるのだろうと。そしてそれはエリオットに一つの重い不安を抱かせた。リーオの気持ちに付け入るような真似をしているのだったら、こんなことはもうやめなければいけないと。
「やだなぁ、気持ち悪いこと言わないでよ」
けらけらと笑う声がした。リーオはカウンターにティーカップを置くと、いつものように笑った。そしてエリオットに微笑みかける。
「僕が君のことを好きだとか、そう思ったの?エリオットはやっぱり馬鹿だなぁ」
「茶化すなよ!オレは真面目に……」
その様子はすっかりいつものリーオだった。
少なくともエリオットはそう感じた。眼鏡の奥できっと微笑んでいる。
短い付き合いではないのだ、それがわかるほどにはエリオットはリーオを知っていた。でもその更に奥になにがあるのかがわからない。
「ううん、エリオットはやっぱり馬鹿だよ。確かに僕は君のことが好きだよ。でも君の思ってるような感情じゃない。それは断言できるから」
「……そう、なのか」
「うん」
にこっとエリオットの目の前で笑う。そんなリーオはやっぱりどこかわからなくて。一旦は納得の返事をしたエリオットだったが、どこか釈然としない思いを感じていた。
ただの友人があんなふうにしてくれるものなのだろうか。エリオットの知る限り、ただの主人で友人である相手にあれだけ尽くせるものではない。だからもしかして、と思ったのだが、正面から否定されてしまってはそれ以上言及するわけにはいかなかった。
エリオットは手にしたティーカップに視線を落とした。そこには薄いグリーンが揺れていた。綺麗なのに、どこか頼りないその色。
「なら、いい。変なことを聞いてすまない」
「ううん。お菓子でも出そうか」
「ああ、そうだな」
それっきり、その話はおしまいになった。エリオットに背中を向けて、リーオはキッチンのほうへ行ってしまう。
だからエリオットには届かなかった。今も、そしてこれからもずっと。
「そんな感情じゃないよ。君が恋だと表現するような、綺麗なものじゃ、ない」
END.
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プレゼントさせていただいた際のコメントです。↓
>明らかに今月号に触発されたブレエリ←リオでした。リーオの愛し方もある意味病的だと思います。そしてエリ←リオは公式なんですね!万歳!
>ところでタイトルの『swinging』は『揺れ動く』という意味なのですが、もう一つ意味がありまして…『乱交』ですって…!(爆笑)ひるどらはーつにぴったりのタイトルになってしまいましたが、最初通り『揺れ動く』のほうの意味でお願いします(笑)
7月号発売直後に書いた話ですね。エリ←リオは公式ですよね、ええ!
前作『私をみつけて。』でエリーはリーオの気持ちを知っているのか?という点を書けなかったので、補足的な続編です。エリーはなんとなく気付いているのですよ。でもリーオに言うつもりはないと。ほんとに昼ドラですね!
10.06.23.
再録:10.07.22.