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銀の聖夜、降積る side B

まさかこの年になって、こんな青臭い行動をするとは思ってもみなかった。
門の前、日も暮れて数時間。空気はきんと冷たく、しっかりとコートを着てきたものの、既に身体の芯まで冷え切っている。
こんな事態になったのは、ひとえに直前まで迷っていたからに他ならない。
実行するべきか、やめておくべきか。その答えが出たのはついさっきのことで、つまり待ちぼうけ───ブレイクが勝手に一方的に、だが───を食らっている相手に連絡する時間がなかった。それだけのことだ。だからここで待つしかない。
待ち人はいずれここへやってくるだろうし、ブレイクを見つければ誘いを断るはずがないということすらよく知っていた。それでも待つという行動は、少し人の心を不安にさせる。そんなものだ。
はぁ、とため息をつけば、白い空気が空中にほわりと浮かんだ。日は落ちて、門に灯ったあかりと目の前の建物……ラトヴィッジ校から零れるひかりが煌々と輝いている。時折楽しそうな嬌声が聞こえてくるのはパーティーが盛り上がっているからだろう。その最中にいるであろう彼があまり楽しくなさそうにしていることをありありと想像して、ブレイクは少しだけ笑みをこぼした。
貴族の家柄だというのに、愛想というものをどこかに置き忘れて生まれてきたような子だ。同じ貴族の生まれでも、少し前まで愛想の塊のようだったオズを思い出して、なんと対照的なのだろうと少し皮肉に思う。
それでもいい。きっと自分は彼のそんな真っ直ぐなところにどうしようもなく惹かれてしまったのだろうから。
ただストレートに愛情をぶつけてくるそれを、初めは確かに疎んでいた。何度酷くあたっても諦めないどころか更に踏み込んでこられるうちに、いつのまにか絆されてしまったのだろう。なんやかんやいっても、人間というものは好意を向けられて悪い気はしないのだ。疎ましく思っても、嫌うことなどできなかった。
なにひとつブレイクのことを知らないで、それでも好きだと言い続ける彼の好意には、だからこそ策略も下心もなにもない。その純粋な気持ちは若さのせいもあるのだろうけれど、生まれ持った性質も大きいと思う。
とにかくとても真っ直ぐで純粋なのだ。ブレイクに好きだと言い続けるエリオットは。
「……オヤ」
目の前をちらっと白いものが横切り、ブレイクは視線を上げた。ちらちらと白いものが舞っている。雪が降り出したらしい。道理で冷え込むはずだ、とコートの襟を慰み程度に掻き合わせて建物を見上げた。
パーティーはまだ終わる気配を見せない。彼もきっとあの中に身を置いているはずだ。それもそのはず、今夜は特別な日なのだから。
聖夜祭の前夜というこの日、ブレイクがここへやってきて何時間も待ちぼうけを食らっているのもそれのおかげに違いなかった。一年に一度しかないこの日を一緒に過ごしたいと思った。
決心がついたのはほんの数時間前で、心が決まった時にはパーティーの終わる時間には早すぎると思ったものの来てしまっていた。折角決めたのだ、取り逃がすことなどあってはならない。そう思って。
彼は気付くだろうか。この日にブレイクが誘いに来た理由に。
特別なのだということは気付くかもしれない。でも本当の理由にはきっと気付かない。それも仕方のないことだ、エリオットはブレイクの事情などほんの欠片程度にしか知らないのだから。来年は来られないかもしれない、いや、……きっと来られないから、なんて、知らないほうがいい。
遠くない未来にこの世界に別れを告げることをよく知っていたから、エリオットを誘うのを躊躇った。この先ずっと傍にいてやることもできないのに、僅かな甘い夢を見させることの残酷さ。とても一途で真っ直ぐな彼のことだからきっと、ブレイクがいなくなったからといってすぐ次に行くことなどできないだろう。大きな傷を残してしまうのはもう避けようのない事実。
だとしたら、ひとときの夢でもいい。思い出を残してやりたかった。
そしてそれ以上に、自分にも思い出が欲しかった。
これだけは絶対に言うことはない。でも自分の中で確かにそこに存在している。
確かにエリオットを愛した思い出を一つだけ。一つだけ持っていきたいと思う。
「……、」
ふと、視線を向けた先のテラスに人影が出てきたのを目にとめた。遠目に見てもわかる、すらりと線の細い体のライン、少し癖のある短い髪。目当ての人物をようやく見つけて、思わずほう、と息が出た。
彼はまだこちらに気付かない。ため息でもついてテラスの手すりに凭れているらしい。例によってパーティーを持てあましてきたのか。そんなところすらかわいらしく思う。
きっと彼のことだからそのうちこちらに気付くだろう。そう確信している自分にほんの少しだけおかしくなった。いつのまにこんなに絆されてしまったのだろう。
それでもいいと思う。
だって今夜は聖夜祭だ。誰かを愛しく思うのに、これほどふさわしい日はない。
きっともうすぐこちらを見つけて来てくれるだろうから。もう少しだけ待っている。
彼の青い瞳が期待とブレイクへの思いをいっぱいに詰め込んで見つめてくれるまで、待っている。


END.


+++++
エリーサイドでメインの話を書いたら、ブレイクさんが「私の話も書きなサイ」と言ってきたので急遽ブレイクサイドも書くことに。
しかしまぁ…ブレエリは切ないです。いつか遠くない未来に終わりが来るところが。エリーがそれに気付いていないところが更に切ないです。


2010.12.25.



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