春に咲く東の花
今日は暖かないい日和。オープンテラスでのお茶もいちだんとおいしく感じられる。
ここは二階だからあまり遠くまでは見渡せないのだけど、今オズの目の前にはかわいらしいピンク色の花をたくさんつけた枝がいけられていた。東洋の春に花を咲かせる有名な木だそうだ。ギルバートが「アパートで分けてもらった」と持ってきて飾ってくれたもの。薄いピンクの花はまるで春をそのままかたちにしたようだ、とオズは思う。一目見て気に入ってしまったのだ。
「オレ、春って好きだなぁ。あったかいし、花も綺麗だし」
横で紅茶を注いでいたギルバートに話しかけるその声も嬉しそうな色を帯びていた。ギルバートはそんなオズに笑みを向けた。オズがこの花を気に入ってくれたことがまた彼を幸せにするのだと感じさせる笑顔だ。
「もう少ししたらマーガレットが咲くぞ。パンドラの庭にも植えてあるから見に行こう」
「うん、行く行く!花瓶に飾るのもいいけど、やっぱり庭に植えてある花のほうが元気そうだもんね」
パンドラの庭にマーガレットが可憐に咲く様子を想像して、オズの表情は自然と緩む。花はなんでも好きだけど、春の花はやさしい感じがして特別好きだ。
「チューリップなんかもかわいいだろうなぁ……、あ、そうだ、オレは春が好きって言ったけどさ、ギルはいつが好きなの?」
なんの気なしにオズはそんな質問を投げ掛けた。多分昔、「ボクも坊ちゃんと同じですよ」と答えたように、同意が返ってくるのだろうと予想して。
しかしギルバートの答えは違っていた。少し考える様子を見せてから口を開いて。
「オレは別に……オズがいてくれるならどの季節でも」
「……え?」
最初にオズの頭に浮かんだのは「またか」だった。なんでもオズを一番にするギルバートのいつものことだろうと。しかしすぐに彼の口からそんな言葉が出てきた理由が頭に閃く。
この10年、オズはいなかったのだ。
雪が溶けてあたたかくなっても、かわいい春の花が咲いても。ギルバートはずっと一人のままだった。何度一人の春を過ごさせてしまったのだろう。
「……ごめん」
オズが呟くと、ギルバートは目を丸くした。そして慌てた様子で続ける。
「なんでお前が謝ることがある。オレは本当に、お前がいれば」
オズの表情が暗くなったことに戸惑ったものの、彼は自分が口に出した言葉の理由に思い当たらないようだ。鈍感なのもあるけれど、それはオズが傍にいる今に満足して安心しているからとも取れる。
「ギル、来年の春もこの花が欲しいな。春だけじゃなくて、夏も秋も……ずっとお前といるから」
もう二度と失わせはしないように。ギルバートはそれを聞くと、きょとんとした表情ののち、嬉しそうに笑った。
その笑顔に決意を新たにする。
刻印が一周するのにほぼ一年。だけどもうアヴィスに落とされてなどやるものか。
必ず本当の自分を取り戻す。ギルバートを一人にしないように。かわいいピンク色の桜の花を、彼が笑顔で手に取れるように。
END.
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パンドラハーツ企画『Fleur』からの再録でした。とはいえ初出は確か、2010年の春コミ、だったかな?ペーパーSSでした。
再録:11.07.23.