Dreaming Sunday

  1. Home
  2. Novel
  3. ポッキーゲーム〜チームパンドラの場合〜

ポッキーゲーム〜チームパンドラの場合〜

「ゲーム?」
シャロンのその発言に、室内にいたメンバーは声を揃えて問い返した。
お茶の時間、今日のお茶菓子はレインズワース家で作られたケーキでもブレイクが持ち歩いているキャンディでもなく、アリスとオズがギルバートに半強制的に買わせた市販の菓子だった。優美な屋敷に似合わないチープなパッケージの菓子がテーブルの上に散らばっている。
その一つを見てシャロンが「この間雑誌でこれを使ったゲームを見ましたわ」と言い出したのである。
「なになに?おもしろいの?それ」
オズが興味を惹かれたという顔で乗り出せば、アリスもそれに続く。「おもしろいことなのか?」などとわくわくした表情になって。ブレイクは既にその『ゲーム』の内容に思い当たっているのか袖で口元を隠してくすくす笑っている。
そんな中、ギルバートは一人不穏な空気を感じていた。なんだか嫌な予感がする。その感覚は彼には最早お馴染みのものであった。つまり……オズやブレイクにからかわれるときに感じる不穏さと同じものだったのだ。
「ええ。このお菓子を使ったゲームですわ。二人がこの一本を両端から食べていって……」
シャロンのその説明によってギルバートの予感はどんどん現実味を帯びていく。
「そうすれば当然、……ですわね。そのときに先にお菓子を離したほうが負け、というものですわ」
きゃっ、と頬を染めてシャロンは解説を終えた。
聞き終えるやいなやギルバートはさっと背中を向けて「オレは外でちょっと一服……」と逃げ出そうとしたのだが、すぐさまコートの裾を捕まえられた。ギルバートを拘束したのは勿論他でもない彼の主人である。主人……オズはにっこり笑って「いけないな、ギルは。だからKYって言われるんだよ?」と引き留めた。しかしその顔は「獲物を逃がすわけにはいかない」と物語っている。
標的にされるのはわかりきっていたのに……オズにそう言われればギルバートにもう逃げ出すことはできないのだった。
「ふぅん。それがなにかおもしろいのか?私は別にやりたくなどないな」
「アリスさんにもそのうちわかるようになりますわよ。このゲームの持つ意味が」
アリスは既に興味をなくしたという表情でお菓子を一人先にかじっている。そんなアリスにシャロンがにこりと優しく微笑んだ。
「アリスはやりたくないんだ?じゃあ誰がやんの?オレ、シャロンちゃんにお願いしよっかな〜」
「……!?」
ちらっと一瞬こちらを見た、と認識してギルバートが戸惑ったそのあとにオズが口に出した相手はしかし自分ではなかった。ほっとすべきところなのに、ギルバートの胸に広がったのはもやもやとした感情だった。
オズがシャロンと?オズはシャロンのことが好きなのだろうか。
そう考えた途端にギルバートの胸が痛んだ。鈍い痛みは治まらない。こんなことなら「ギル、お前やれ」と言われたほうが何倍も良かったとすら思った。
「嫌ですわ、オズ様。恥ずかしいです」
「そうですヨ〜、私の目の前でお嬢様に手を出すなんて許しませんヨォ?」
頬を染めたシャロンの後ろから、ブレイクがその肩に手を置いた。シャロンを守ろうとするブレイク、その仕草はどうも芝居がかっていると思ったものの、ギルバートの胸の不安は消えなかった。
オズが誰かとそんな破廉恥なゲームをする?そんな事態になったらどうすればいいのだろう。
「ちぇ〜。ブレイクとやるのはごめんだし…ギルは?」
「えっ?」
ぶー、と膨れたオズが急にこちらに話を振ってきてギルバートは狼狽えた。オズは微笑みをたたえた目でこちらを見ている。
「だから。ギルはやりたい?オレと、ゲーム」
なんでもないように言われたその言葉にギルバートの顔がかぁっと熱くなった。オズとそんなことをするなんてとんでもない。
だけど、とも頭の片隅で思った。
本当はオズとしたかったのではないか?だからオズが「シャロンちゃんに」と言った瞬間胸が痛んだのではないか?それというのは、つまり……。
「い、いやっ、オレは、そのっ」
それ以上考えることができなくて、ギルバートの思考はオーバーヒート寸前だった。
そんなギルバートの頬をなにかが包み込んだ。
それはオズのてのひら。認識した瞬間にどくん、と胸が高鳴るのを感じた。
「ギルは。やりたくない?」
「そ、そんな……ことは……っ」
頬を包んだまま至近距離で見つめられる。そんな状況で冷静な思考を紡げる余裕などギルバートにはない。ようやく出てきた言葉はそんなことだけで、それでもオズはにやっと笑った。
「嫌じゃないんだ?じゃ、やろっか」


「じゃあいっきまーす」
「オズ様、頑張ってくださいませ〜」
「せいぜい楽しませてくださいヨ?」
結局オズとゲームをすることになってしまった。嬉々とした表情でお菓子を一本手に取るオズに、シャロンとブレイクから声援(?)が飛ぶ。
しかしギルバートに落ち着いて返事をすることなどできなかった。オズとこんなことをする羽目になろうとは。あんなに顔を近付けると考えただけで心臓が止まってしまいそうだ。
いや、落ち着け。ギルバートは必死で自分に言い聞かせる。
唇……がくっつきそうになったらすぐさま離せばいいのだ。別に負けたってかまわないし、そのほうが……。
「じゃ、いくぞ〜……、あ、ギル」
お菓子をくわえようとした直前、オズがにこりと笑って言った。
「わざと負けたりしたらおしおきな」
「え……!?」
まるでギルバートの思考を読んだかのようなセリフ。ギルバートはそれに固まった。わざと負けてはいけない、と言われたことでギルバートの思考は再び混乱に陥る。一体どのタイミングで離せば許してもらえるのだろう。
そんなギルバートにかまうことなく、オズはお菓子の片側をくわえてもう一方をギルバートに差し出してきた。逆らうこともできずにギルバートはそれをくわえる。お菓子はせいぜい20センチ、普通にくわえただけでもかなり近い。
(どうする、どうすればいいんだ!?)
ギルバートに『お菓子を食べていく』ことなどできるはずはなかった。やけに大きく感じる振動と共にオズの顔がだんだん近付いてくる。今すぐ離したい、しかし「わざと負けたりしたらおしおき」である。進退窮まったギルバートの目の前まで迫ったオズの目がそっと閉じられた。
少し前からとても綺麗に笑うようになったオズ。その碧の瞳が瞼に覆い隠されて見えなくなるのを、ギルバートはどこかひとごとのような気分で見つめていた。そしてオズの瞳が見えなくなった瞬間、ギルバートの覚悟は決まった。
誘われるように目を閉じると、唇に柔らかいものがあたるのを感じた。その瞬間に周りから声があがったはずだったが、ギルバートの耳には届かない。
柔らかいものはしばらくそこに留まり、やがてギルバートの口内に侵入し、お菓子をさらっていく。いつのまにかオズの手が頬に添えられていて、深く捕らえられていた。既にギルバートのほうに逃げる気など全くなかったけれど。
頭の芯がぼうっとして、ふわふわした感じがする。オズが離れていっても、ギルバートはしばらくぼんやりしていた。ゆっくり目を開いたその前でオズがにこっと笑う。
「オレの勝ち」
ごちそうさま、と言われてようやくまともな思考が戻ってきた。同時に顔が熱くなる。
流されてしまったが、オズとキス、した。しかも人前で。
「……っ」
思わず唇に手をやる。そこにはまだお菓子の甘い味と……オズの唇の柔らかい感触が残っている気がした。
「ね、シャロンちゃん、オレの勝ちだよね?」
「え、いえ、その……両者離さずにキス……になってしまった場合は引き分けだそうで……」
「えー?どう見てもオレの勝ちじゃん!」
「そうですねェ。ギルバート君を見るに、確かにオズ君の勝ちのような気がしますが…」
無邪気な様子で勝ちを主張するオズ。ギルバートのほうをちらちらと見ながら赤い顔で説明するシャロン。そして楽しくてたまらないという表情でオズとギルバートを見比べるブレイク。
アリスは一人お菓子に夢中になっていたが、その他三人の様子にギルバートは顔と頭の中が一気に熱くなるのを感じた。思わず後ずさりするとドアに背中が当たった。今すぐここから逃げ出したいと言う心のままに、ギルバートはドアを開けて外に飛び出していた。
「あーあ、逃げちゃった」
「オズ君がこんなところでキスなんかするからデスヨー」
「そうですわ、オズ様」
背後では呆れたような(それぞれ違う理由でだろうが)声がいくつか聞こえていたが、ギルバートにそれを聞く気はない。それより早く一人になって煙草でも吸って……一息つかなくては心の中身が溢れてしまいそうだった。よってギルバートがそのあとの会話を聞くことはなかったのだが……聞いていたらとても一服とはいかなかっただろう。
「ワカメはなにを慌てているんだ?ただのゲームだろう?」
「アリスさんもどなたかとキ……キス、してみればわかりますわよ?」
「あれをキスというのか。それならオズとしたことがあるが」
「「!?」」
アリスの一言にブレイクとシャロンが度肝を抜かれる。
「どういうことですのっ、オズ様!」
「本当なんですカ?事故……というようではなさそうですネ」
「いや、まぁ……なりゆきというか……」
詰め寄る二人に、ギルバートとのキスを披露した手前、オズは視線をさまよわせる。
「酷いですわっ、オズ様!二股です!」
「いや、シャロンちゃん、そういうんじゃな……」
「オズの奴がどうしても下僕にしてほしいというものだから契約してやったんだ。まぁ、主人と下僕の契約ということだな」
「……アリス君……」
わっと顔を覆うシャロンにとりすがるオズ。得意気なアリスにブレイクは思わず言葉を失った。この三角関係は一体どうなってしまうのだろうか。

いずれにしても、バルコニーに逃げ込み煙草を味わうギルバートにそれを知る術はないのであった。


END.


*****
久しぶりの小説更新です。実はこれ、ポッキーの日のために書いたものでした。つまりかなり古いです。今見直すと設定やら関係性やらにつっこみを入れたくなりますが、折角なのでリサイクル。
どうしてポッキーの日にアップしなかったかというと、単に間に合わなかったんですよね…思いついたのが遅かったので。とりあえず、パンドラの世界にポッキーはないだろう!という一番大きいつっこみはお許しください(笑)


10.03.07.




Web拍手 twitter

Copy Right © Dreaming Sunday all rights reserved.