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フキゲンワルツ

「好きな人、できたんだ」
もしそう言ったら、君はどんな反応をするのかな?


驚くだろうか、喜ぶだろうか、怒るだろうか。想像してみて、答えが出る前に諦めた。わからない、そんなこと。
エリオットがどう返事をするかなんてわかるわけないじゃない。僕はエリオットじゃないし、そしてエリオットも僕じゃない。そしてこんな話にどう反応するか、なんてわかったら悩むこともないだろう。
でもこうなったらいいな、って思っていることはある。少しでも気にしてくれたらいい。どんな感情でも興味を持ってくれたらきっと嬉しいだろう。

でもどうしてかな、想えば想うほどうまくいかないのは。


「お前、ふざけんなよ!また夜更かししただろ!ぶっ倒れるぞそのうち」
本に夢中になって夜中をかなり回るまで起きていたことを責めてエリオットが噛みつく。僕のことを思って言ってくれているのはわかるけど、やっぱり怒鳴られていい気はしない。
「なに?エリオットに迷惑はかけてないでしょ。そんな簡単に倒れるわけないじゃない」
「わかんねぇだろそんなの!お前は飯だって残すし体育はサボるし体力あるとは思えねぇんだよ」
ああ、またこんな。エリオットとぶつかるのはよくあることだけど、どうしてこうなっちゃうのかな。
「規定数は出てるもの。僕が単位を落としたことがある?」
「そういう話をしてんじゃねぇ!……もういい、遅刻する。行くぞ」
偉そうに言わないでよ、って喉まで出かかって飲み込んだ。これ以上続けたら授業に遅刻してしまう。
エリオットと朝から言い合っちゃったせいで、お腹の中がもやもやする。わかってるよ、エリオットがあれこれ言うのも僕のことを心配してるんだ。
でも僕はエリオットの従者だけど所有物じゃない。考えだってあるし、怒鳴られたら嫌になる。素直にごめんね、なんて思ってもいないことはやっぱり言えない。
エリオットのことは大好き。親友だし主人だし、これは言っていないけどそれ以上にも大切に想ってる。この気持ちは単純で綺麗なもののはずなのに、なんでこんな言葉しか交わせないんだろう。喧嘩すること、多すぎるよね。言い合いたいわけじゃないのに。
学校へ続く道を歩いていると、風向きが変わったのかふわりと知った匂いが香った。エリオットの髪の匂いだ、と気が付くのに時間はいらない。いつも僕が用意するシャンプーの匂いだ、間違えるはずもない。その香りはするりと僕の中に入り込んで鼓動を速める。
その髪に触れられたらいいのに。でも無理だ、だって喧嘩中だもの。謝ればいいのかな、でも僕だけが悪いなんて思わない。そんなところへ今度は音が聴こえてきた。
「───」
エリオットの声……というか音なのは確かだ。なにか曲を考えているみたい。そんなときはメロディーを口ずさむことがあるんだけど、本人は気付かないみたい。一回指摘したら焦ってたっけ。
なんとなくしか聴き取れないけど、どことなく悲しげな歌だ。明るい音なのに、底抜けの明るさでは決してない。
「ね、エリオット」
声をかけるとエリオットは不思議そうに振り向いて、僕の顔を見てばつの悪そうな顔をした。また口に出してたか、と顔に書いてあるのでおかしくなってしまう。そんなところはなんだかかわいいなぁって思えてくる。
「昼休みに聴かせてよ、その曲」
「……気が向いたらな」
エリオットの表情がいつものものになる。気の強そうな眼が優しい色を帯びるその顔が、たまらなく好き。
「こんなだったかな?」
聴いたばかりのメロディーを口ずさむ。この曲ができたら一緒に弾けるかな。エリオットの隣で柔らかくて少し悲しいこの曲を。
それができたら話してみようか。「好きな人、できたんだ」。
エリオットがどう応えるかはわからないけれど、そのときなら言える気がした。この曲に乗せて、僕の気持ちを。


END.


*****
パンドラハーツ企画『Fleur』からの再録でした。純粋なエリリオはもしかしたら初めてかも、です。


再録:11.07.23.



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