Catch You Catch Me
*side Gilbert
「ギルバート先生!」
「すまない、遅くなった。行こうか」
待ち合わせた先は、寮から少し離れた公園。ギルバートが車で入口に付けるとすぐにオズが走り寄ってくる。なるべく人目につかないようにと素早くオズを拾い、車を発進させた。
今夜はクリスマスイブ。
……なのだが。生徒は冬期休暇でも、教師の休暇はまだ少し先。本日平日、普通どおりに仕事のある日だ。よって仕事が終わってからの待ち合わせになってしまい、定時に学校を出たものの、ギルバートがオズにようやく会えたのは日も既に落ちかけた薄暗い夕方のことだった。
「えへへ、楽しみだな、今夜はギルとずっと一緒にいられるなんて」
車に乗り込み、すっかり定位置になった助手席に収まると、オズは嬉しさを隠せないといった口調でそんなかわいいことを言ってくれる。呼び方も「ギルバート先生」から「ギル」に変わり、今は教師と生徒ではなく単なるクリスマスを一緒に過ごす恋人同士だ。
家で食事の支度をする時間がなかったから、今日は少し遠出をして、二つ向こうの街で夕食をとる予定を組んだ。そこまで遠くに行ってしまえば出先で学校関係者に会う確率はそれだけ低くなる。
ギルバートとオズが教師と生徒ながら恋人同士であることは、知られてはならない秘密。少なくともオズが卒業するまでは。会うのも人目を盗んでの関係も、今日はきっと少しだけ開放的になるはずだ。
「新しい服を買ったのか?よく似合ってる」
前を見ながらの運転ではじっくり見られないが、オズの服は見たことのないものだった。カーキの生地にファーのついたコートは少し大人っぽいデザインで、オズによく似合っている。
「うん、こないだおじさんとエイダと出掛けてそのときに買ってもらったんだ」
そのときの様子を話すオズはそれは無邪気でかわいらしかったが、次の一言に、ギルバートは危うくハンドル操作を誤るところだった。
「中もすごいんだよ?楽しみ?」
「……っオズ!」
含み笑いを向けてそんなことを言うオズに、ギルバートがなにを想像したかなんて言う必要もないだろう。慌てた様子のギルバートを見て、オズは楽しくてたまらないといいたげに声をあげて笑った。
「やだなー、中の服だよ?なに想像したの?ギルのえっち」
「からかうな馬鹿っ」
二人を乗せたギルバートの黒い車はそのまま順調に高速道路への道を入っていった。
「わー、降ってきたね」
食事を済ませてレストランを出る頃には雪がちらついていた。窓の外からその様子を見て「ホワイトクリスマスだよ」とはしゃいでいたオズが喜ばないはずはない。舞い散る雪の中に身を置いて雪を手にとっているオズが、ギルバートの目には天使のように見えた。
誇張ではなく、ギルバートにとってオズは守るべき大切な天使に他ならない。ほっておいたら飛んでいってしまうのではないかと、ギルバートは手を伸ばすとうしろからオズを捕まえていた。
「なに?ギル。雪、冷たいね」
オズはなんでもないように振り返って笑う。その笑顔に堪えきれなくなり、思わず場所も忘れて口づけていた。
少し通りから外れた場所にあるとはいえ、道の真ん中だ。我慢するべきなのはわかっていたけれど、それよりもオズに触れたい気持ちが勝ってしまう。
オズのくちびるは柔らかく、少し甘い味がした。そういえばディナーのデザートをギルバートの分まで食べていたことを思い出す。逆にあのあと煙草を吸った自分は苦い味がするかもしれない、とギルバートは少しだけ反省した。
それでもオズのくちびるを求めるのをやめられない。もう後戻りできない程溺れている。自分でよくわかっていた。
「……ギル」
ようやく解放されたオズが見上げてくるのにまた心臓が高鳴る。長い睫毛の瞳も、あまいくちびるも、全てを奪ってしまいたい。
「……どうしたの」
オズが少し心配そうに尋ねてくる。
普段人目をより気にするのはギルバートのほう。オズは大胆な行動をとるものの、人目に触れないように気を配っていたのだな、とギルバートがあとから思うようなやり方をする。ギルバートはそういう器用なことができないから、何度も人目を確認して、ひとけがないことを確認してからでなければ行動に移せない。それなのにいきなりこんな行動に及んでしまえば、オズが疑問に思っても当然だ。
「なんでもない。……オズが綺麗だったから」
その理由が全てではないと、きっとオズも気がついただろう。しかしオズは一つまたたきをして、にこりと笑った。
「そう?ありがとう」
深く追求しないことが優しさなのだと、オズの笑みが教えてくれる。だから落ち着いて言うことができた。「そろそろ帰ろうか」と。
今すぐオズを抱きしめて離さずにいなくても大丈夫だと。捕まえていなくても、どこか知らないところへ飛んでいったりしないと。
だからオズの手を引くだけに留めておいた。
*****
*side Oz
「わぁ、かわいいね。こんなツリー持ってたの?」
「いや、買ったんだ。オズが来ることになったから」
一緒にギルバートの部屋に帰ると、そこには小さなクリスマスツリーが鎮座していた。50センチほどだろうか、小さな鉢植えの木はしかし本物のもみの木のようだ。モールや小物で飾られて、ギルバートの部屋にクリスマスの雰囲気を醸し出していた。
その飾られているものの一つにオズの目がとまる。
そこには小さな天使が飾られていた。金髪で白いローブを着た天使。さっきのギルバートの言動から照らし合わせると、もしやこれは。
「ね、ギル。飾り付けもギルが買ったの?それとも買ったときについてきたとか」
少しの期待を込めて訊いてみる。ギルバートは照れたように笑いながら答えた。
「いや、木とは別に買ったんだ。店で見たこの飾りつけがかわいかったから」
なるほど。じゃあつまり、多分この予想は外れていないということだ。オズは胸の奥を羽かなにか、やわらかいものでくすぐられたような気持ちを覚えた。
ギルバートはわかりやすい。なにを思ってこのツリーを飾り付けたのか、オズにはわかる気がした。
「ねぇ、ギル。オレは天使じゃないよ。ここにいる」
「……オズ」
ギルバートを振り返って言うと、彼が顔を歪めるのが見えた。近付いてきてオズを抱きしめる。痛いほどに抱きしめるものだから、オズは仕方なくギルバートの背中を撫でた。本当に、9才も年上の大人で教師だというのに、ギルバートは不安がりだ。
「わかっている、わかっているんだ。でもオズはとても綺麗だから。いつかどこかへ行ってしまうんじゃないかと」
「……バカだな」
買いかぶりだと思ったものの、ギルバートの気持ちがわからないではない。
今二人で一緒にいても、同じ学校にいても、違う立場や違う世界を持っている。そのせいでギルバートがどこかへ行ってしまったら、と不安を覚えるのはオズも同じだから。
「どこにも行かない。卒業するまではずっと一緒にいられるし、卒業してもギルの近くにいる。約束したでしょ?」
「……ああ。わかっている」
ギルバートの背中をぽんぽんと叩いて身体を離すと、オズはギルバートを見上げた。少し不安な気持ちの残る目で、それでも笑ったギルバートに笑い返す。
「だから、さ。ギルもちゃんと捕まえててよね。どこかに行っちゃうかもなんて、行かせなければいいでしょう?」
「……そうだな、もう離してやれないと思う」
「だからー、それでいいって言ってるじゃん」
やわらかい色を帯びたギルバートの瞳を覗きこむと何故だか笑いが込み上げてきて、二人でくすくすと笑った。
そのあとギルバートがもう一度オズを抱きしめ、キスをしたのがその夜の始まり。
ツリーにぶらさがっていた天使の飾りは、ツリーが片付けられてもギルバートの部屋の壁に収まった。
「でもやっぱり、これを見るとオズを思い出すから」とそこに天使をぶら下げたギルバートに、オズは「仕方ないな」と一つ笑ってやった。
END.
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クリスマス、ギルオズver.でした。初めは全く違う話だったんですが、ギルが「オズはオレの天使だ」とか言い出したことからこんな感じになりました。ほんと、ギル恥ずかしい子…。
ギルバート先生は、頼りになるようなならないような。一度沈むとどこまでもいってしまう人かな?そんなときはオズ君に掬いあげてほしいです。
タイトルは昔人気のあった某アニメのテーマソング…またかわいい作品からお借りしてしまいました。
2010.12.25.