an apple a day ver.オズギル
「おいワカメ!なんだこのリンゴは!酸っぱいぞ!」
人の家の食料に手をつけておいてその言い様はないだろう、と言う気は既になかった。言うだけ無駄だ、年中いつでもお腹を空かせているアリスにそんなことは。しかし言いがかりをつけられるのは心外だ。
ギルバートはきゃんきゃんと喚くアリスからリンゴを取り上げるとため息をついた。文句を言ったくせに取り上げられるのは嫌がるアリスは「返せ」「私のだ」とぴょんぴょん跳ねるけれど、ギルバートの身長には到底届かない。
ギルバートが手にしたリンゴは、普通のものより小ぶりで、しかし普通のものより深い紅い色をしている。この時期にしか食べられない品種だというのに。
「どうしたの?リンゴが酸っぱかったの?」
奥のソファで座っていたオズが騒ぎに気付いたのか、ギルバートと、それからアリスの傍までやってくる。ギルバートが手にしているアリス齧りかけのリンゴを見て、ああ、という顔をした。
「ああ、それか。アップルパイにするとおいしいんだよね」
「そうだ、だから出さずにとっておいたのに……この食い意地の張ったバカウサギが」
「なにおう!リンゴはリンゴだろう、食ってなにが悪い!」
オズの言うことは黙って聞いていたアリスが、ギルバートが言葉を発するやいなや噛み付いた。オズにおいしいアップルパイを食べさせるために買い置いておいたギルバートがそれに黙っているはずもない。すぐにいつもの言い合いが始まった。
「そもそもこれはオレの買ってきた食糧だ!人のうちのものを勝手に食べるなと何度言ったら!」
「お前は下僕の下僕だろう!下僕のものは私のものだ!手をつけられることを光栄に思え!」
「このっ……オレはオズの従者だが、お前の下僕になった覚えは!」
「はいはい、そのへんにしといて」
そしてその言い合いは、いつものようにオズの一言で収められた。ギルバートとアリスの視線が同時にオズに向く。
「オレは間違ってないよな?」と言いたいギルバートの眼は、相対していたアリスと全く同じ色を浮かべていたけれど、本人にそんな自覚は全くなかった。
「アリス、これはギルがおいしいアップルパイにしてくれるからそれまで我慢だよ。ギル、お前は大人げない」
大人げない。
はっきりと断言され、ギルバートはずっしりと落ち込んだ。オズのためにと買っておいたリンゴだったのに、とか、オズにおいしいアップルパイを食べさせてあげたいだけだったのに、とか言いたいことはあったものの、瞬時に湿気を帯びさせたギルバートをかまうことなく、オズはアリスに「あっちでお茶の続きにしよう」と行ってしまった。
一人アパートの台所に取り残されて、ギルバートは欠けたリンゴに視線を落とした。酸っぱいリンゴはやはり嫌われるのだろうか。少しだけ自分を重ねてしまって、ギルバートは一つため息をついた。
「なぁに、お前、まだ落ち込んでたの」
夕方にアリスとオズをパンドラ本部に送っていって、そのまま帰ろうとしたらオズに捕まえられた。「今日はギルのうちに泊まるから」と言われて歓喜したギルバートだったが、昼間の一悶着はまだ尾を引いていて。
今度は二人でアパートに帰るやいなや、オズは「疲れた」とベストを脱ぎ、ネクタイをほどき……さっさとベッドに倒れこんでしまう。ギルバートは落とされたベストとネクタイを拾って、無意識のうちに皺を伸ばしていた。ぼーっと天井を見上げていたオズが、いつまで経ってもそうしているギルバートに疑問を覚えたのか、こちらに視線を向けた。そして呆れたように尋ねる。
「だって、オズが」
言いかけたものの、なにに対しての言葉なのかが自分でもわからずそこで止まってしまう。そんなギルバートを見てオズが一つため息をついた。その音にどきりとする。オズが、えい、と起き上がってベッドサイドに立つギルバートの腕を掴むのを、ただ見ていることしかできなかった。
「オレはかわいいと思うんだけどなぁ。そういうギル」
見上げてくるオズは、少し困ったような、しかし笑いを含んだような眼をしていて。その瞳の中まで吸い込まれそうな力を持っていた。
「わ、」
捕まえられた腕をぐ、と引っ張られて、不意打ちに抗えずベッドに倒れ込む。一瞬オズを潰してしまったのではないか、とひやりとするけれど、ギルバートをベッドに引き倒したオズは笑っている。その眼には、その眼の奥にはいつもギルバートを捕って食べてしまう獣の色が潜んでいて、一瞬だけ冷えた心臓が瞬時に熱くなった。
「酸っぱいのが嫌なら、オレが甘く煮込んであげる。ギルをおいしくしてあげるよ」
「……おず」
オズの手で頬を包みこまれる。ふわりとオズの香りに包まれて、早くなった心臓から全身が熱くなった。
オズのくちびるが寄せられて、触れられる。紅いリンゴを齧る、そのくちで。オズの手が、指が、くちびるが、触れる部分から熱を持って甘くなる。
「……オズ」
すっかり熱くなった身体を持てあましてオズを呼ぶと、にこりと微笑まれてもう一度くちびるを重ねられた。
あまいものしか知らないそのくちびるに、溶かされる。
END.
+++++
「りんごをテーマに」オズギル&ギルオズ。こちらはオズギルver.です。
拍手お礼SSでした。
10.12.27.
再録:11.06.19.