Dreaming Sunday

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※直接的表現はありませんが、ちょっとあやしげな雰囲気があります。
苦手な方はご注意ください。











甘いトリュフの長い一日




今日は一年で一番愛が飛び交う日、バレンタインデイ。
そう、オレのためにあるような日だよね!
甘い物は大好き、そして女の子も大好き。今年は一体いくつもらえるか、指折り数えてわくわくだ。
「おはようございます、オズ様」
パンドラ内にあるティールームに顔を出すと、朝一番に声をかけてくれたのはシャロンちゃん。朝もまだ早いのに、既にきちんとした身なりでティーカップを手にしている。やっぱりかわいいな〜、オレって年下が好きなんだよね。だって護ってあげたくなるっていうかさ、かわいいじゃん。今のシャロンちゃんは本当は23才なわけだけど、オレだって本当は25才なんだから別にかまわないよね?
「オズ様、今日はバレンタインデイですから。お気に召すと良いのですけど」
「いいの?ありがとー!」
予想通り、早々一個ゲット!上品な花柄の紙に包まれたチョコレートは、オレの好きなブランドのものだ。シャロンちゃんらしいなぁ。ちゃんとオレが「ここのチョコ、好きなんだよね」って言ったこと、覚えてくれてたんだ。
舞い上がっていると、バタン!と背後のドアが乱暴に開いた。
「オズ!見つけたぞ!」
入ってきたのはアリス。オレを探していたのかぱぁっと顔が輝く。
でもオレはちょっと危機感を覚える。アリスのことだから、チョコじゃなくて肉とかくれそうじゃん。肉が嫌いってわけじゃないけど、やっぱりチョコのほうがいいし。
アリスはかまわずにつかつかとオレの前までやってきて……包みを差し出した。
「感謝するがいい、下僕のためにこの私が!わざわざ作ってやったのだぞ!」
「え、手作り?」
「そうだぞ、さぁ、泣いて喜ぶといい!そして『ほわいとでい』とやらには三倍返しだ!」
渡された包みは確かにちょっと歪んでいて、いかにもアリスが包みました、という雰囲気を放っている。しかし真に恐ろしいのはその香り……なんで肉の香ばしい香りとチョコの甘い香りが一緒ににおうんですか、アリスさん!?
「あ、あの……これは……」
オレがぶるぶるしながら尋ねると、アリスは勝ち誇った顔のまま説明してくれる。
「今日はチョコレートを贈る日なのだろう?だから特別に!肉にチョコをコーティングしてやったのだ!うまいものとうまいものをあわせれば、もっとうまくなるに決まっている!さぁ、感謝に泣き咽びつつ貪り食うがいい!」
「は、ははは……ありがとう……」
オレの自慢の金髪が真っ白になりそうだよ、アリス……。
ふらふら部屋を出て行く背後で声がした。
「アリスさん、食べ物には『食べ合わせ』というものがあってですね、いくらおいしいもの同士でも相性が……」
「なにっ、そうなのか?でも味見してみたらなかなかいけたぞ?」
「いえ、アリスさんのお口にあっても一般的にはですね……」
シャロンちゃん、来年のバレンタインデイにはせめて、肉かチョコのどっちかにするようにちゃんと教えてくれるかな。これを食べるかどうかで今年は悩みそうだ。


お昼を過ぎた頃に面会があった。今日は日曜日だから、もしかしたら来てくれるかなーって期待してたけどやっぱりだ。
「お兄ちゃん!」
「エイダ、元気だった?」
外見だけはオレより年上になってしまったけれど、中身はかわいい妹のまま。かわいらしい外出用のドレスに身を包んだエイダは、オレが部屋に入ると嬉しそうに抱きついてくる。オレが年下好きなのって、やっぱりかわいい妹がいるからかな。エイダよりかわいい子なんてそうそう見つからないけど、なんて思うのは兄バカ?
「お兄ちゃん、今日はバレンタインデイだから。これ、お兄ちゃんに」
「ありがとう。……もしかして手作り?」
「ええ、あんまりうまくできなかったかもしれないけど…」
渡された箱は、ピンクのチェック柄の包装紙に赤いリボンがかかっている。エイダらしいなぁ、とほわんとしていると、エイダは頬を染めて話し出した。
「お友達とね、寮のキッチンを借りて作ったの。すごいのよ、みんな。とっても真剣で」
「そっかー、誰かのためにチョコを作るなんてかわいいなぁ。みんなうまくいくといいね」
「うん!できれば私も……っ!」
「!!エ、エイダ……?まさか、その……」
今まで気に留めていなかったが、エイダの持つバッグの中に、もう一つチョコレートらしき包みが見えた。それはオレがもらったものよりも大きくて、いかにも……そう、いかにも……。
「なっ、なんでもないの!じゃあ、お兄ちゃん、私行くところがあるから!」
「ちょっ……エイダー!?」
ぱたぱたと走り去ってしまったエイダ。かわいい妹を見送りながら、オレは違う意味で再び頭が真っ白になりそうな思いを味わっていた……。


そして夕方。今のオレはちょっと不機嫌。
今日はパンドラの構成員やら使用人、その他色々……散々女の人からチョコをもらった。部屋に運んでもらったけれど、食べきるのにどのくらいかかるものやらだ。なのに、なのに本当に欲しいものがまだもらえていない。
あいつだって一日仕事でパンドラにいたくせに、なんでくれないんだろ。なにかにつけてこっちをちらちら見てくるから期待したのに、バカみたいじゃないか。
とうとう夜になって、オレは痺れを切らした。
「ギル!」
「……っ!?オズ!?」
乱暴に扉を開けて、ギルの部屋に押しかける。お風呂を済ませたのか、ラフなシャツとパンツに身を包んだギルからは石鹸の匂いがした。一日オレをやきもきさせたのだ、腹いせにすぐさまベッドに押し倒してもいいけれど、確かめなくちゃいけない。ギルの本意を。
「ギル。今日はなんの日だ?」
「う……。ば、バレンタインデイ……」
「ふーん、覚えてたんだ。じゃ、くれないってことはその気がないと。そういうことだな?」
「ちがっ……!?」
ギルに包みを放る。それは今日一日、唯一手放さずにいたもの。大切な一個だけど、誰かにもらったものじゃない。つまり、オレがギルのために用意したものだ。
包みをキャッチしたギルは目を真ん丸にする。ああ、もう。そんな顔をされたら恥ずかしいじゃないか。オレはずっとギルへのチョコを持ち歩いてたのに気付かないんだから。
「お前がくれたらやろうと思ってたけど、もういいよ。くれないんだろ」
「違う……っ!」
拗ねたような声が出て、そんな自分にむかついた。もういいやと部屋を出ようと思ったけれど、ギルがなにやら必死でラックにかけてあったコートのポケットを探るものだから思いなおした。出てきたのは、小さな箱。ただしちょっと潰れていた。
「……くれるの?」
期待してどきんと心臓が高鳴ったのを押し殺して尋ねてみる。するとギルは早口で、言い訳でもするかのように説明しだした。
「朝からずっと渡さなきゃって思ってて、でもなんかいろんな人からもらっているみたいだったし、オレみたいな男からもらっても困るよなって思ったら……。渡せなくて、帰ってきたら箱は潰れてたし、こんなもの……」
「……バカ」
一気に胸の中が熱くなる。そんなことで一日中悶々としていたのかと思うと、ギルがとっても愛しくなった。本当にかわいいやつだなぁ。近付いて強く抱きしめる。オレだって、待ってないで朝一番にこうすれば良かったんだよね。結局お互いに一歩踏み出せずにいただけ。そう思うとなんて無駄な一日を過ごしたのだろうと笑ってしまいそう。
「ありがとな、嬉しいよ。じゃ、早速」
「あ……、中身、無事かわからないぞ……?」
今日一日チョコをたくさんもらったけれど、実はまだ一個も食べていない。律儀なことにお茶の時間までチョコのお菓子を抜いたものだから、甘い物が食べたくてしょうがないよ。
がさがさと包みを開いて箱を開けて……出てきたものにオレは笑ってしまった。そこにあったのは、表面がでろりと溶けて形の崩れたトリュフ。それを見てギルは真っ赤になる。
「お前、どんだけこれ持ち歩いてたの」
「いや、これは……っ、やっぱり返せ!明日ちゃんとしたのをやるから!」
「だーめ。もうもらったもん」
「おい、オズ!」
焦った言葉を紡ぐギルを無視して一つつまみ、口に放り込んだ。うん、おいしい。ギルの作るお菓子の味がする。
「オズ、そんなもの……」
「そんなものとか言わないの。おいしいよ?」
「しかし……っ」
うるさい口は塞いでしまうに限る。チョコの箱をテーブルに置くと、ギルの頬を捕まえて口付けた。トリュフを食べたばかりだ、オレの口の中は多分甘い味がするよね。このまま酔わせてしまいたい。ギルの口の中に舌を侵入させ、戸惑うそれを捕まえて吸い上げる。
珍しく煙草の苦い味がしないのは、歯を磨いたからかな?でもこんな甘いキスをしたら、寝る前にもう一度歯磨きしないとだね。歯磨きの前に、トリュフよりもおいしいギルをいただくけれど。
散々味わいつくして開放すると、ギルの黄金の瞳はとろりと潤んでいた。その綺麗な金色がオレを誘う。
「ギル」
短く呼んだだけで、意図は伝わったはずだ。近くのベッドが役に立つのもそう先のことではないだろう。
バレンタインデイは、やっぱり甘いものを食べないと、ね?


END.


*****
アップが一日遅れました、すみません!バレンタインネタでした。バレンタインがあるかはわかりませんが…まあいっか!(適当) バレンタインといったら、やっぱり直球で楽しむのはオズでしょう!ギルは自分がもらうこととか考えてなさそうです。オズにあげるチョコで頭がいっぱい(笑)。タイトルの「甘いトリュフ」は勿論ギルですよ!一日中「渡す、渡さない」で悶々としているかわいい子です。


10.02.15.




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