Dreaming Sunday

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wrapping for you (オズ×ギルバート)





ギルバートは一冊の雑誌を熱心に眺めていた。
普段雑誌を買うことはない。時たま料理専門誌を買う程度である。ファッションや服にはあまり興味がないし、毎月買うようなものではないと思っていた。しかしうっかり書店で手にして購入してしまったそれには、彼の興味を惹くような記事が珍しく載っていたのだ。

『クリスマスプレゼント特集!レベイユのカップルに聞きました、もらって嬉しいプレゼントはなに?』

そう、季節はクリスマス。街中もライトアップされ、刻刻と近付くクリスマスに向けて少しずつ飾り付けが増えている。クリスマスケーキの予約を受け付けるケーキ屋、チキンやターキーといった肉類を売る肉屋も繁盛しているようだ。
クリスマス当日は、オズとアリスをアパートに招いてささやかなパーティーをする予定になっている。そのためのレシピは既にリサーチを完了し、あとは当日予約してある食材を受け取るだけだ。小さなクリスマスツリーも買い込んで、ギルバートの部屋には緑色のもみの木がモールや星を身につけて鎮座していた。
準備はほとんど完了していた。しかし、一番大きな問題が一つ残っている。今ギルバートがこんな雑誌を手にしているのも全てそれだけのためだ。
クリスマスプレゼントが決まらない。
アリスには既に暖かそうなソックスを購入していた。短いスカートを好んで穿くアリスが脚を冷やさないようにという、これはいささか親心にも似た気遣いでギルバートは女性向けの雑貨屋で気に入ったものを入手した。綺麗にリボンをかけてもらって既にクローゼットにしまってある。
問題はオズへのプレゼントなのである。
(なにが欲しいんだろう……)
考えてみても、大概のものは既に持っている気がした。綺麗なアクセサリーも、外出用の服や小物も、ギルバートが贈るまでもなく貴族のオズはたくさん持っている。生半可なものではそれらに埋もれてしまいそうで、選ぶのは躊躇われた。
食器はどうだろうと、記事を見て考える。ギルバートのアパートに置いておけばオズ専用のものを持つことは可能だ。しかし、ちらっとキッチンに目をやってギルバートは一つため息をついた。
既にオズ専用の食器は一揃い買い揃えていたのだ。新しく買うと以前からあるものが使えなくなってしまう。
紅茶や砂糖など普段より少し質の良いものを贈るのも良いと、記事には書いてある。しかし現在オズの口にするものより上質な物など、多分あまりないだろう。あっても入手するのは難しそうだ。
「……あ、」
ギルバートは一つの記事に目をとめる。そしてすぐにページをめくった。頬を少し赤く染めて。こんなものは贈れない。
『赤いリボンをつけて、プレゼントはわたし。っていうのもインパクトがあるでしょ?』
オズはきっと喜んでくれるとわかるけれど、そんな恥ずかしいことはできやしない。

「クリスマスプレゼント、ですか?」
わからなければ聞くに限る。ギルバートはまずレインズワースの館を訪れた。冬らしい濃いピンク色のドレスを身に付けたシャロンはギルバートにお茶を勧め、そして首をかしげた。
「オズ様に?」
「なかなかいいものが思いつかないんだ。なにをもらったら嬉しい?」
湯気を上げる紅茶からは薔薇の香りがふんわりと漂ってきた。薔薇のジャムを入れた、冬にぴったりのロシアンティー。花の絶えないレインズワース家ならではのメニューである。
「そうですねぇ……、やはりアクセサリーでしょうか。例えば、おばあさまのあのイヤリング。詳しくは聞いたことがないですが、大切な方からいただいたものなんですって。いくらたくさん持っていてもやはり大切な方から頂いたものは特別ですわ」
「そうか……、でも男はあまりアクセサリーをつけないよな」
「いいえ、髪飾りでも時計でもなんでも……ああ、ギルバートさんからオズ様へお贈りするなら指輪が良いと思いますわ!恋人同士でしたらやはり!」
きゃーっと顔を輝かせて乙女モードに入ったシャロンにギルバートは少したじろぐ。こんな思考に入ったシャロンは少し厄介だ。
「オズ様とギルバートさんでしたらやはりゴールドですわね。あまり石をたくさん入れるよりシンプルにまとめるのがお勧めですわ。少し捻りを入れたデザインなどオズ様に映えるのではないでしょうか」
「あ、あのそろそろオレは」
どこまでも妄想が膨らみそうな気配を感じて、ギルバートは椅子を立ち掛ける。しかしその手をそっと、しかししっかりと掴まれた。
「ギルバートさんの手でしたら少し大きめサイズになりそうですわね。測って差し上げますわ」
「いや、あの、えっと」
「今リングサイズゲージをお持ちしますからね」
にっこり笑って言われてしまえばギルバートにそれを断ることはできない。手袋を外され、シャロンの小さな手にいろんなサイズのリングをはめられてお茶の時間は過ぎていった。

「クリスマスプレゼントォ?」
ぐったりしてシャロンの部屋を退散すると、ブレイクに遭遇した。いつも通り飴を咥えて廊下をふらふら歩いていたのだ。
「ああ……。言っておくけどな、まともなものを言えよ」
釘を刺したというのに、ブレイクはそんな言葉を聞き流してとんでもないアドバイスを寄越してくる。
「いいじゃないですカ。君たちくらいのバカップルなら君が箱に入って『オレがプレゼントだ』とかやれば」
「まともなものって言っただろう!」
確かに考えなかったわけではない。しかしそんな恥ずかしいプレゼントはお断りだ。オズになにをしてもらいたいかが滲み出てしまってそんなことは到底できない。
「エー、じゃあケーキとか。手作りすればいいじゃないですカ」
「ケーキは作る。それとは別にな……」
「めんどくさいですネェ。じゃあ服とか仕立てては如何デス?」
「それはいつもやっているから普段通りすぎないかと」
「あれも駄目これも駄目ですカ!めんどくさい男になったもんですネ、君も」
ブレイクの提案を片っ端から却下していると、ブレイクのほうが耐えられなくなったようでがりっと飴を噛み砕いた。バリバリと飴を噛みながらぐいっとギルバートに飴の棒を押し付けてくる。
「アーア、もう付き合いきれまセン。やっぱりかわいいランジェリーでも着て君がプレゼントになるのが一番ですヨ」
「だからそんなことは!……あー……」
心底呆れたという表情をして、ブレイクはギルバートから背を向けて去ってしまう。残ったのはゴミとなった飴の棒。
「あいつに聞いたのが間違いだった」
ギルバートは一人ごち、廊下のゴミ箱にきちんとそれを捨てて屋敷を後にした。

「そうですねぇ、プレゼント……」
次に辿り着いたのはパンドラ本部。書庫から出てきたレイムを捕まえて聞いてみた。眼鏡を弄って少し考えて、レイムは口を開く。
「親しい方でしたらやはり身につけるものがいいですね。ハンカチやタイなど如何でしょう」
「そうか……たくさんあっても嬉しいものか?」
「ええ。特別なものになると思いますよ」
レイムはにこりと笑ってそんなアドバイスをくれた。先程のブレイクの意見を思い出してギルバートは心がほどけるのを感じる。やはり相談相手は人選するに限る。心からそう感じた。
「ありがとう。レイムは誰かにプレゼントをあげるのか?」
「ブレイクとシャロン様には毎年贈っておりますよ。ルーファス様にも勿論」
「そうか、今年はもう決めたのか?」
「はい、少し悩みましたが」
そのまま少し立ち話をしてレイムとは別れた。やはり身につけるものがいいようだ。新しいタイでもあつらえようか。
意外な人物に遭遇したのはきっと、考え込んでいたそのせい。
「兄さん!こんなところで会うなんて珍しいね」
「……あ、ヴィンス」
「……ご無沙汰しています」
エコーと共にパンドラを訪れていたらしい。ヴィンセントはここぞとばかりに、顔を輝かせてギルバートの腕を取った。
「仕事で来たら兄さんに会えるなんてラッキーだなぁ!ねぇ、兄さん今日は仕事じゃないの?もし暇ならお茶でも飲まない?」
「ああ、すまない。仕事はないが今取り込み中で……」
「なぁんだつまらない。じゃあ今度必ずね!」
「ああ、わかった」
少しがっかりした様子のヴィンセントを見て思い出した。ヴィンセントにも毎年ささやかなプレゼントを贈っている。それは紅茶であったり焼き菓子であったり、本当に気持ちだけではあったけれど、それでも子供の頃から毎年のこと。
ギルバートからの小さな贈り物を毎年ヴィンセントは嬉しそうに受け取ってくれることを思い出して、ギルバートは思い直した。物がなにであるかなど些細なことなのかもしれない。それはきっと、贈り主の気持ちがなによりも大事なのだろう。
「クリスマスプレゼントを考えていたんだ」
そんなことを考えていたら、自然と素直な気持ちが口から出ていた。ヴィンセントは目を丸くして、それからぱぁっと嬉しそうな顔になる。
「ええっ!僕に!?」
「あ!いや、えーと……ああ、お前にも」
口籠ってしまって少し申し訳なくなった。
ヴィンセントが自分を大好きなことを知っている。オズのことばかりを考えていた自分がとても冷たい人間であるような罪悪感を覚えてしまう。
「そっかぁー、嬉しいなぁ!ギルからだったらなんでも嬉しいよ!去年はギルがシュトーレンを焼いてくれたんだよねぇ」
懐かしそうに思い出を話すヴィンセント。それに相槌を打ちながら、ギルバートはプレゼントについて思いを馳せた。今年は少し多めに菓子を焼いて、ヴィンセントやエリオット、そしてさっき会った身近な人々に配ろうと。
そして一つだけ特別なプレゼント、も。


「ギル、ありがとう、こんなに準備をしてくれて」
「肉!肉がたくさんだぞ!なぁなぁもう食べてもいいか!?」
クリスマス当日、ギルバートのアパートは賑やかな声とおいしそうな食べ物のにおいで満ちていた。早速肉に飛びつこうとするアリスを押しとどめてターキーを切り分ける。放っておいたらそのままかぶりつかれかねない。
「早く!早くよそえ!」
「肉は逃げないんだからおとなしく待てバカウサギ!」
「なんだと!……わぁ」
待ちきれないらしくぐいぐいと袖を引っ張るアリスをたしなめ、ターキーの乗った皿を前に出してやる。いただきます、と高らかに宣言するとアリスは肉に噛みついた。
ひとまず大人しくなって、ギルバートは少し安心すると、改めてオズに向き直る。
「すまない、本当なら先にお前に出すべきなのに」
「いいよー、そんなの。アリスは食いしん坊だからね」
オズの分を取り分け、皿を出す。オズはにこりと笑ってそれを受け取った。
「おいしそうだね。いただきます」
オズが自分の作った料理を口に運んでくれる。それは甘美な喜びをギルバートに与えてくれた。
「うん、とってもおいしい。ギルも食べなよ」
「オレはいい、あとからで」
「だぁめ。今日はパーティーなんだよ?一緒に食べよう」
「そうだぞワカメ!おかわり!」
「お前は言っていることとやっていることが違うだろう!」
暖かい部屋で、賑やかに食事の時間は過ぎていった。

「寝ちゃった?アリス」
「ああ。……ったく、一人でオレのベッドを占領しやがって」
食事が済み、クリスマスケーキも綺麗になくなって。気がつけばアリスはソファに突っ伏してすやすやと眠っていた。食事が終わったらパンドラにある居室まで送り届けるつもりでいたギルバートにはこれは誤算。あまりにお腹が満たされてそのまま眠くなってしまったらしい。
しかし流石に叩き起こして帰すのも躊躇われた。結局綺麗にベッドメイクしていたところへ寝かせてしまったのは、やはり親心だろうか。
「一人で、って。なにに使うつもりだったの?」
寝室から戻ってきたギルバートを、オズはくすくす笑ってからかった。
ソファの前にはケーキの乗っていた皿と、紅茶のセット。カップにはまだ半分ほどお茶が残っていた。成人しているとはいえ、オズはまだ若いしギルバートは酒に弱い。アルコールは一つも用意しなかったのだ。
「それは、……別に」
一瞬詰まって、ギルバートはそんなふうに答える。なにに使うつもりだったかなんて、オズだってよく知っているはずだ。しかしそれを明言できるほどギルバートの心臓は強くない。
「ふふ。まぁいいじゃん。ベッドじゃなくてもたまには、ね?」
「それはっ……、そうだが、でも寝るところが」
「やだなぁ寝かせると思うの?」
オズとの会話に、アリスを交えていたときとは違う艶っぽさが混じり始めてギルバートの心臓が高鳴る。確かに期待していたけれど、こんな雰囲気になる前は落ち着かない。
「ねぇ、ギル」
「わ、」
突然オズがギルバートの袖を引いてきた。ぐっと引き寄せられて、くちびるが重なる。思わず目をつぶって、ただオズのくちびるの甘い味を感じた。クリスマスケーキの甘い味。
「ギル、」
オズの手が胸に伸びてきて心臓が一つ跳ね上がった。
しかしオズの手はギルバートの期待とは違うところへ滑っていく。白いタイを愛おしそうに撫でている。
「これ。よく似合ってる」
「あ、……りがとう……」
今日のタイは、オズからのプレゼントだ。
形は普段と同じ三段フリル。しかしこれには細かい刺繍がしてある。金の糸で繊細で美しい刺繍がされているそれを、いきなりつけるのは勿体ない気もしたのだが、オズがねだったのだ。「着けてオレに見せてみて」と。着けたところを見せるとオズはぱぁっと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「それにしてもプレゼントがかぶるなんて、本当に考えてること同じだね」
すっとギルバートの胸元に顔を押しつけながら、オズが嬉しそうに言う。
オズの胸にも新しいタイが締められていた。色は同じワインレッド。ただし普段つけるプレーンな形ではなく、華やかに広がる蝶の羽根のようなものだ。
「これでも色々悩んだんだ」
ギルバートは目の前のオズの頭に手を伸ばした。柔らかな金髪をそっと撫でる。
「オレだって同じだよ。すっごく悩んだ。だってギルにあげるんだもん。当たり前じゃん」
オズの身体が温かい。それは暖かい部屋で暖まったという、それよりも。
「大事にしてね。毎日着けても、それとも特別なときに着けてもそれはお前に任せるけど」
「当たり前だ!えと……勿体なくて毎日は着けられないかもしれないが」
「だからってしまい込んだままは嫌だからね」
ふとオズが顔を上げた。視線が合って、どちらともなく微笑む。
プレゼントはうまくいったようだ。喜んでもらえたことが、こんなにも嬉しい。
「でも。今はちょっとギルのプレゼントには休んでてもらおうかな」
そう言って首元に手をかけ、オズはしゅるりとタイを引き抜いた。解いてテーブルの上へ置く。
それが意味するところを思い知って、ギルバートは思わず唾を飲みこんでいた。オズがネクタイを解く仕草を見るだけでどうしようもなく期待させられてしまう。
「オレのプレゼントもね」
すぐにオズの手がギルバートのタイにかかった。ぱちんと留め具が外されてシャツからタイが落ちる。オズは膝の上に落ちたそれを拾って、やはりテーブルの上へと重ねた。
「ねぇ、なんだかネクタイってラッピングみたいだよね」
ギルバートを引き寄せながらオズはくすくすと笑う。大人しくされるがままになりながら、ギルバートも頷いた。
ネクタイは外へ出るときの包装だ。それを解いて開けた今は、ただ一人の自分でしかない。
「ギル、大好き。ギルをちょうだい」
重なり合ってソファに倒れ込む。自分の上にオズの重みを感じながら、ギルバートは幸福感に目を細めた。
「全部、オズのものだから」
「そうだったね。……いただきます」
重なったくちびるはやはりケーキの甘い味がした。ケーキよりももっと甘いキスを。オズの首に腕を回してねだるともう一度くちびるが重なった。
一つキスをする度に、オズでいっぱいになっていく。クリスマスの夜は、甘くてまだ永い。


END.


*****
第二弾はオズギル。去年はオズギルがえろだったので、今年は一般向けにしてみました。ラストがあやしげだけど、ぎりぎりセーフだと主張する!


Q.これで終わりとか鬼畜すぎませんか、焦らしプレイですか?



26日におまけとして、なにかが更新される気がしなくもないです。


11.12.24.




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