二人のポインセチア (エリオット×リーオ(※現代新婚設定パロディ))
君を驚かせようと思って、こっそり書庫にあるものを忍ばせている。
書庫に滅多に入らないエリオットは、多分気付かない。目的のあの日まで、気付かれないことが僕の目標。気付かれてしまったらプレゼントとしての価値は半減してしまうから。
「今日も元気そうだね」
朝、エリオットが出勤して一人の家。書庫から日当たりのいいリビングへ、秘密のそれ、鉢植えを移動させた。
話しかけて水をやる。
馬鹿なことだと思わないでね?植物だって心があるんだよ。優しくしてあげればその分美しい姿を見せてくれる。エリオットへのプレゼントなんだから、綺麗に成長してほしいんだ。
赤と緑の葉っぱを持った、その鉢植えはポインセチア。成長すればまるで花を咲かせたかのように葉っぱの一部が赤く染まる。
緑と赤。この鉢植えをプレゼントに選んだ理由。
クリスマスにぴったりだから。きっとクリスマスの夜を綺麗に彩ってくれるだろう。
「綺麗な色……」
葉を摘まんでみても瑞々しくて元気なのが伝わってくる。
目的の日までもうすぐ。枯らしてしまうわけにはいかないから毎日の世話は欠かせない。苗から買ってきて、秋の間葉っぱが綺麗に色づくように日当たりのコントロールをして。やっとここまで育てたのだ。
エリオットは花が好き。きっとこれをプレゼントしたら喜んでくれるだろう。エリオットが留守の間にたくさん陽を浴びさせてあげよう。
と、思っていたのに。
ガチャ、と玄関から音がした。
え、誰!?
……とはいっても、インターホンを鳴らさずに鍵のかかったこの家に入れるのは僕以外に一人しかいない。
エリオットだ!何故か知らないけど戻ってきたんだ!
玄関で靴を脱いでいるのだろう、ごそごそと音がする。
どうしよう、今ここに来られたらポインセチアが見つかってしまう。でも書庫に戻すには廊下に出なきゃいけない……。どうにかして隠さなきゃ!
「やっべー大事な書類忘れちまった」
「あ、ああなんだ、忘れ物?びっくりした」
走って戻ってきたのだろう、スーツを乱したエリオットがバタン、と勢いよくリビングのドアを開けて入ってきた。
「ああ、今日これ必要だったのにすっかり忘れて……、電話したけど出勤したら怒られるよな……」
はぁ、とため息をついてエリオットはテーブルの上にあった封筒を手に取った。そういえばあれは昨日、エリオットがパソコンでなにやら作っていたものだ。大事な資料とかなのかもしれない。でもそれならすぐまた出かけるだろう。
エリオットには悪いけれど、僕は少しほっとしていた。ぎくりとしたのはエリオットがキッチンのほうへ向かおうとしたから。
「急がなきゃなんじゃないの?」
咄嗟にエリオットの進路を遮っていた。そちらへ行かれては困るのだ。エリオットは不思議そうに僕を見る。
「そうだけど……走ってきたから喉渇いたんだよ。茶の一杯くらい飲んでもいいだろ」
「じゃあ僕が淹れる!なにがいい?あったかいの?冷たいの?」
エリオットが怪訝そうな表情を浮かべた。
やばい。でもキッチンに入られたら困る。とても、困る。
「……じゃあ、オレンジジュース。すぐ出なきゃだから」
「わかった!そっちに座って待ってて」
「……変な奴」
普段エリオットに飲み物を淹れてあげることはあまりない。そう、大概なにか本を読んでいる途中だからエリオットも飲み物は自分で淹れるのが習慣だ。気が向けば紅茶やコーヒーを淹れて二人でティータイムをすることもあるけれど、ジュースを飲む程度で入れてあげたことはない。エリオットもそれに不審さを感じているようだ。疑問の色を浮かべた声で呟いた。
そんなエリオットを背にキッチンに入る。冷蔵庫からパックのオレンジジュースを取り出した。
大概朝食に飲む、少し酸っぱいオレンジジュース。棚からコップを取って注いだ。寒い季節だから氷は入れずに。
僕の足元……キッチンの一番奥の部分、カウンターの下……にはひっそりとポインセチアがいた。
「はい!どうぞ」
「……サンキュ」
エリオットの眼はまだ不審そう。それでもコップを受け取った。半分ほどを一気に飲む。
「今日は帰り遅いの?」
「いや、いつも通りのはずだ」
「そう。待ってるね」
「……別にいつも待ってるじゃねぇか」
それはそうだけど、と言い返したくなってやめておいた。これ以上突っ込まれたら流石のエリオットもなにか訊いてくるかもしれない。急かすように、時計を見上げてみせた。
「やべ、もうこんな時間か。駅まで走らねぇとだな。これサンキュ」
期待通り、エリオットは僕の視線を追って時計を見上げて、そして慌てた様子でオレンジジュースを飲み干した。そしてコップを押し付けて返してくる。玄関へ急ぐエリオットを、僕はほっとした気持ちで追っていた。
「早く帰ってきてね」
「……変な奴。いってくる」
「いってらっしゃい」
ぱたん、と小さな音を立ててドアが閉まって。僕は安堵のため息をついた。
危ないところだった。これからはエリオットに見付からないようにもっと気をつけなくてはいけないだろう。プレゼントするその日までもう少し、なのだから。
チキンとオードブル、飲み物にケーキ。テーブルの上には温めたり栓を抜いたりするだけになっているおいしそうな食べ物が並んでいた。エリオットも今夜は早く帰ってくるはず。
僕もエリオットも一通りの家事はできるようになっていたけれど、流石にスペシャルなごちそうを手作りするのはまだハードルが高い。今年はおいしいと評判のお店で予約して、夕方取りに行ってきたのだ。
新しいテーブルクロスを敷いて、エリオットの好きなクラシックのCDも用意した。完璧だ。きっと素敵な食卓になるだろう。
そして勿論、秋から大切に育てたポインセチア。鉢に細いリボンを結んでテーブルの真ん中を飾ってくれている。花や植物が好きなエリオットはきっと喜んでくれるだろう。鮮やかな赤い色でテーブルを華やかに彩る様子につい笑顔が浮かんだ。
「ただいまー」
声と同時にがちゃりと玄関の開く音。
エリオットだ!普段はエリオットより本を優先させる僕でも今日ばかりは別。
つい玄関に迎えに出て……そしてエリオットの持っているものに目を丸くすることになった。
「はー、遅くなっちまった。これ。プレゼントだ」
「……ポインセチア?」
ビニールの綺麗な袋に入っていたのは鮮やかな紅い鉢植え。
見目は勿論違う。けれど明らかに僕の育てたのと同じ品種の植物だ。
「ツリーいらねぇって言っただろ。だから代わりにこれにしてみた。これだったら冬の間ずっと飾れるし」
手渡されて両手に収まったそれを見ていると、なんだかおかしくなってきた。
なんだ、結局僕とエリオットは似た者同士なんだな。くすくす笑う僕を見て、エリオットは不思議そうな顔をする。きっと僕が単純に「ありがとう」とか言うのを予想していたんだろう。
「ありがとう。ねぇ、僕もエリオットにプレゼントがあるんだよ」
「うん?それ、なんか変だったか?」
「違うよ。ずっと一人ぼっちだったからきっと喜ぶと思って」
「なんだそりゃ?」
疑問符を浮かべたエリオットの手を引いてダイニングへ招く。
僕からのとっておきのプレゼントを見たら、エリオットもきっと同じ反応をするはずだ。二つになったポインセチアを囲んで、「なにやってるんだかな」。そんなふうに笑い合おう。
END.
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トップバッターはエリリオでした!同人誌『箱舟』で書いた新婚設定でクリスマスをやりたくなってつい。この二人にはほのぼのあったかいクリスマスを過ごしてほしいなぁ。
11.12.23.